風力発電と地域共生(1)完全地元資本で!(全3回)
更新日:2023年10月30日
風の松原風力発電所 出典:風の松原自然エネルギー株式会社
風の松原自然エネルギー株式会社は、地場の企業である大森建設が中心となり100%地元資本で設立された風力発電事業会社。地元だけの力で風力発電事業を立ち上げたことも素晴らしいですが、地元の会社であるからこその地元愛にもあふれ、その企業活動は独特で市民からは大きい支持が寄せられています。
技術営業部長の石井さんとのお話から、風の松原自然エネルギー株式会社の歩みはもちろん、地域振興のあり方のヒントを探ります。
・風力発電と地域共生(1)エネルギーの街能代の第一歩を完全地元資本で!(この記事)
・風力発電と地域共生(2)『郷土を愛し、地域に尽くす』が当たり前の地域貢献
・風力発電と地域共生(3)『自分たちの風車だ』と愛される未来に向けて
- この記事でお話を聞いた方
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- 大森建設株式会社 取締役執行役員技術営業部長 石井昭浩さん
- 「地域の理解を得ながら、地域と共に発展していきたい」
- この記事の著者
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- エネルギーのまち能代 編集部
- 皆様は「洋上風力発電」をご存知でしょうか。秋田県能代(のしろ)市では、日本で初めての「大規模商業運転」が2022年から始まっています。
このサイトでは風力発電の話題はもちろん、再生可能エネルギーや環境問題についても幅広く解説しています!洋上風力発電で未来をひらく、能代の「いま」をご覧ください。
風の松原に風車が建ち並ぶまで
風の松原に立ち並ぶ風車群 出典:編集部にて撮影
───いまでは風力発電における日本のフロントランナーとして注目される能代市ですが、風の松原自然エネルギー株式会社の取り組みが先頭で道を切り開いてきたと思います。紆余曲折あったと思いますが、これまでの経緯などについてお話しいただけますか。
「いまから23年前、建設工事として能代市浅内で風力発電工事の基礎工事を請け負いました。それが風力発電への取り組みの第一歩です。その後、日本の風況に合った小型風力発電を開発できないかとスパイラルマグナス風車の研究開発に参画し、アメリカのNASAまで出かけて少し大型化した風車の実験をしていたのです。試行錯誤するうちに、10.5メートルの風車が出来上がるところまでこぎつけたので、販売しようということになりました」
───反応はいかがでしたか。
「研究開発していた時期がFIT制度(固定価格買取制度)が始まる以前のことでもあり、販売を開始したのがFIT制度スタート後ということから思うようには進みませんでした。販売先の企業が期待するような利益を還元することができなかったのです。風車の羽根が大きくなるほどコストパフォーマンスが良くなることから、風車の大型化に向けて技術開発がどんどんと進む時代に入ってきていました」
───能代で風力発電が本格化するまでには時間が必要だったのですね。
「そうこうしているうちに、能代市役所主催で勉強会が始まりました。地元の会社が風力発電事業に参画できる制度ができるというのです。この勉強会が、能代市が『エネルギーの街』に変貌していく第一歩だったと思っています」
───行政が動き始めると事業環境も整ってきます。
「そうです。その後、東北電力さんが抽選方式で風力発電事業を担当する事業者を決めました。その抽選に参加して何回か落ちた末に、2012年の3月にようやく当選。系統連系の枠を確保できました。これが、『風の松原自然エネルギー株式会社』設立に舵を切っていく重要なターニングポイントになりました」
「風の松原風力発電事業は、2,300kWの風車を17機で計39,100kW、蓄電池施設を併設している風力発電所です。20年間の電力受給契約を締結し、運転開始が平成2016年12月から。プロジェクトファイナンス形式で融資を受けました。羽根の直径82mのドイツ製の風車を採用しています」
日本のモデルケースとなる、初めてづくしの風力発電事業開発
出典:編集部にて撮影(風の松原自然エネルギー株式会社)
「風の松原自然エネルギー株式会社は、この事業を進めるために特別目的会社として設立しました。資本金1億円。出資者は弊社(大森建設)を筆頭に能代市役所、地元企業に銀行など。完全に地元企業の出資で成り立っているところが特色だと思っています」
「風の松原自然エネルギー株式会社は2012年6月12日に設立しましたが、同じタイミングで環境アセスメント制度への対応が求められることになりました。風力発電が新しい事業であり、環境アセスメント実績がある事業と比べて環境影響に関する情報が少ないため、懸念や不安の声が多いということから、これにしっかりと対応すべしということですね。すぐに取り掛かって2年間で評価書まで確定することができました。いまは5年くらいかかっているようです」
───まったくの新事業ですから、審査も難しかったのではないですか。
「準備書説明時、『本案件は、風力発電の環境アセスメント法制度対応の第1号案件です』と言われたんです。他の事業のアセスを参考にしながら進めたのですが、我々としても手探り状態でしたから、ず〜っと大変だった記憶があります」
───風の松原が、次に続く事業開発のモデルとなりますね。
「能代は風の強い地域で、過去に2回、大火に襲われたことがあります。本当に風は厄介者でした。それで、保安林を整備したんですね。風の松原は日本有数の保安林になっていて、砂防、防潮、防風などの複合的機能を持っています。それを、今後は地域資源というエネルギーに変えていくんだというロジックで展開していきました。保安林を部分的に解除し、そこに風車を建てましょうという方向に持っていったのです」
「風力発電での保安林への設置は、秋田県の1号案件でもあります。秋田県には保安林がいくつもあるので、それらに風力発電を建てていくときのための教科書を作る。そういう心構えでやりましょうとお互い手探りでやってきました」
「工事は2014年11月から2016年12月まで行いました。そして風車が稼働して6年半、毎年、計画発電量を超えています。一度だけ送電線に雷が落ちてすべての風車が止まるというアクシデントも経験しましたが、専門家によれば10億円の宝くじが10回当選するほどの稀なケースとのことでした。これ以外は特に問題なく安定的に電力を供給できています。以上が、風の松原風力発電事業の概要になります」
風力発電で発電した電気を蓄電し災害時に活用 出典:風の松原自然エネルギー株式会社
風の松原の風力発電に続く新事業開発がすでにスタート
「次に、能代山本広域風力発電事業を手掛けることになります。風の松原風力発電の風車が回り始める前から計画立案に入りました。22年の6月に着工して、現在絶賛工事中です。2025年の商業運転の開始を予定しています」
「今度は風車の直径が115.5m、最大到達点が147mという大きなものです。ドイツ・エネルコン社のE115型を採用しました。ちなみに風の松原は風車の直径は82mでした。総発電力は96,600kWになります。2025年3月の運転開始を目指しています」
「かなり大きい事業になります。400億円近い事業になりますので、白神ウインド合同会社という会社を立ち上げましたが、大森建設グループ、能代市役所、地元企業団体、地元金融機関、それから東北電力や大手企業三社くらいの計18社が出資。資本金は7億5000万円。やはりほとんどが地域の会社なので、風の松原と同じスキームで進めています」