「洋上風力発電の街」齊藤 滋宣 能代市長インタビュー
更新日:2023年10月30日
能代の空にそびえる風力発電の風車 出典:編集部にて撮影
陸上風力発電に始まり、昨年(2022年)12月に日本初の大型商用洋上風力発電の運転が開始された能代市は、「2050年カーボンニュートラル」が宣言された我が国において、洋上風力発電のフロントランナーとして注目されています。洋上風力発電事業促進区域としての能代市の取り組みは、秋田県北のみならず、全国に認知されつつあります。
その陣頭指揮を取る齊藤市長に、能代に対する思いの深さと強さ、描く将来像などについて存分に語っていただきました。全3回にわたる記事の最終回です。
・能代市のいま(1) 『次世代エネルギーのフロントランナー』への軌跡
・能代市のいま(2) 洋上風力発電で地産地消型の地域振興を
・能代市のいま(3) 「洋上風力発電の街」能代のこれから (この記事)
- この記事でお話を聞いた方
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- 齊藤市長
- 中央大学経済学部卒業。代議士秘書を務めた後、秋田県議会議員2期、参議院議員1期を歴任し、能代市長に就任。現在5期目。
座右の銘は、「人の世の 人の情けに生きる我人の世の為 誠尽くさむ」
- この記事の著者
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- エネルギーのまち能代 編集部
- 皆様は「洋上風力発電」をご存知でしょうか。秋田県能代(のしろ)市では、日本で初めての「大規模商業運転」が2022年から始まっています。
このサイトでは風力発電の話題はもちろん、再生可能エネルギーや環境問題についても幅広く解説しています!洋上風力発電で未来をひらく、能代の「いま」をご覧ください。
もくじ
風力発電への市民の関心を高めた市民ファンド
市民の関心を集めた風力発電事業(写真はイメージです)出典:iStock
「まちおこしで風力発電事業を行うときに、工事などで直接関わりのない市民の方もいらっしゃいますので、地元でのメリットがどこにあるのか、というご意見をいただくことがあります。能代市の場合は、やはり、ここに住む市民の方々に利益を還元できるような取組を、事業者の方とも何度も話し合いをしてきました」
「その一つとして、市民ファンドによる市民の参加という形がありました。2016年から運転している『風の松原風力発電所』では、事業費の一部を市民から調達する『市民ファンド形式』を導入し、一口10万円で2,000口を募集しました。調達金額2億円のところに7.5億円もの応募があり抽選になるほどの人気で、昨年(2022年)4月には市民への出資配当があって大変喜ばれたと聞いています」
「市や地元企業、県内金融機関等との共同出資により設立した『白神ウインド合同会社』では、能代市から八峰町にまたがる地域で新たな広域陸上風力発電事業を計画しておりますが、同様の市民ファンド組成をさらに大きな規模で検討しているところです」
「洋上風力発電にしても、これから事業が展開していくにつれて、工事などで直接かかわりのない市民の方の関心も高まっていくと思いますし、参画したいという事業者も出てくると思います。今我々がやらなければならないことは、参画しやすい事業を、しっかりと計画を練って、下絵を作っていく。そういった枠組みを増やしていくことだと思っています」
「いま、この街の中でも、若い人たちが職種を越えて、みんなで勉強しながらやってみようとか、メンテナンスに取り組んでみようとか、そういう動きが出ていることは確かです」
洋上風力発電の関心の輪は県北から全国へ
全国洋上風力発電市町村連絡協議会設立総会 出典:能代市役所
「まず、次世代エネルギーの導入を促進する過程で、能代港洋上風力発電拠点化期成同盟会に入会する地元企業が徐々に増えていきました」
「『洋上風力発電拠点化期成同盟会』は、洋上風力発電の導入拡大のために、建設やメンテナンスの拠点整備促進を目的として作った団体です。自分たちに何ができるかというような議論が、日々活発に行われています。会員には能代市だけではなく、周辺の自治体、市議会、商工会議所、様々な業種の事業者など、多くの団体に参画いただいています。県北の地域の方だったり、岩手県の県境の地域の方だったりとか、山間部の地域の方だったり、いろいろな方が入ってくださっている。このような事例は、他地域でも類をみないと思います」
「また、地元企業が中心となり、発電設備の建設工事や運転開始後のメンテナンス関係の受注を目指す団体が設立されるなど、企業同士が互いに切磋琢磨しながら、風力発電関連産業への参入を目指そうとする意識の変化が地域の様々な産業から感じられるようになってきました。でも、これからですね。まだまだ始まったばかりなので、もっともっと関心が高まっていくことを願っています」
「こういった動きは全国にも広がっていると感じています。昨年(2022年)、促進区域に指定されている、能代市を含む8つの自治体が発起人となり、『全国洋上風力発電市町村連絡協議会 』を設立しました。着床式や浮体式洋上風力発電はもちろん、波力や潮流等の新たな発電技術に関する調査研究、漁業と共生した水産振興を含む地域産業全体の振興、会員相互の情報共有、事業の円滑な普及による持続可能な循環型社会の構築に寄与することを目的とした協議会です。2023年9月時点で、20の自治体が会員となりました」
「各自治体の関心は高く、参加が増えています。北海道から九州まで、沿岸地域の自治体にとっては同じ問題・課題を持っているということだと思います。CO2削減は世界共通の喫緊の課題です。その中にあって、洋上風力発電等の再生可能エネルギーはCO2削減に貢献し得る次世代エネルギーであり、かつ日本の沿岸自治体が地域振興を考える上で価値のある選択肢になると考えています。能代市はそのフロントランナーとして、先行する事業を全国の自治体と共有する役割を持っていると思いますし、責任は重いと考えております」
「先ほど申し上げたように、国に計画を示して欲しいと言うと同時に、我々も今後どのような計画でやっていくのかを地元企業や市民の皆さんに示していかなければいけない。そうすることによって、『出資してみよう』、『事業に取り組んでみよう』という意欲を喚起することができると思っています」
洋上風力発電のフロントランナーとしての矜持
洋上風力発電のフロントランナーとしての構想を語る:能代市 齊藤 滋宣市長 出典:編集部にて撮影
「国連の事務総長が『すでに地球は沸騰化の時代に入った』と述べたように、CO2削減は待ったなしの行政課題となりました。この危機に我々の自治体もやれることをやる。それが第一です。風力発電によってCO2削減ができるということは、大きな貢献をしているのだという自負があります」
「新たな産業の創出と雇用確保につながるように、再生可能エネルギーを柱としたエネルギーのまちづくりに取り組んできました。特に風力発電においては、国内における先進地としての期待が高まり、本市が対応しただけでも、昨年度は7月以降だけで300人を超える方々が本市を視察で訪れており、今年度もすでに100人を超える方々にお越しいただいております」
「今後も産業振興や雇用創出による地域経済の活性化など、地域が少しでも多くのメリットを享受できるよう取り組みを進めてまいります。能代は風況が良く、港があり、風力発電における日本のフロントランナーになりました。今後も日本のカーボンニュートラル実現のために取り組んでいきたいと思います」
若い世代の意識変化に期待
能代次世代エネルギースクールに参加した高校生 出典:能代市より提供
「まだまだ若い世代の流出は止まっていません。再生可能エネルギーに関連する事業により、都会に職を求めなくても良質な雇用と高い賃金がいただける企業が揃ってくると変わると思うのですが、まだ道半ばというのが現状です。でも、それを可能にすることが行政に携わるものの責任だと思っています」
「市内の高校生を対象に次世代エネルギースクールをやっています。能代の取り組み、今後の取り組みを高校生に分かってもらおうという講座です。いま、我々が取り組んでいるエネルギー政策について、その先の未来について理解してもらう努力をしていきたいと思っています」
市長が思い描く10年先の能代市の姿
インタビュー後に市役所スタッフと一緒に撮影:能代市 齊藤 滋宣市長 出典:編集部にて撮影
「10年後には、再エネ海域利用法の「促進区域」に指定されている本市沖の2海域で洋上風力発電が稼働している予定です。その頃には、本市へのエネルギー産業の集積がさらに進み、地域を支える主力産業として、非常に大きな役割を果たしているものと考えています」
「遠浅の海域が少ない我が国においては、浮体式の洋上風力発電が再生可能エネルギーの導入促進に向けた有効な手段であり、本市を含めた秋田県沖でも浮体式の計画が進められている頃だと考えています」
「また、二酸化炭素の回収・貯蔵・活用に関わる「CCUS※」について、国では2030年までの国内におけるCCS※事業化を目指していますが、過去の様々な調査から、三種町と本市にまたがる海域には一定のCO2貯留ポテンシャルが見込まれると言われています」
※CCS(Carbon dioxide Capture, and Storage):二酸化炭素(CO2)を分離・回収し、地中などに貯留する技術。
※CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage):回収した二酸化炭素(CO2)の貯留に加えて利用する技術。
「海上輸送された二酸化炭素の能代港での受け入れや、地下に圧入した二酸化炭素を使ったカーボンリサイクルの製造拠点化など、CCUS関連分野における新たな産業振興についても大いに考えられます」
「どんな街になっているかというよりも『なっていなければいけない街』をイメージしながら計画を推し進めていく覚悟です。行政として、10年後には地元企業に技術が根付き、人が集まり、成長していくという好循環サイクルを、地球環境に配慮したカーボンニュートラルを実現していきながら創っていきたいと考えています」
「それこそ、次世代エネルギーを『街を再生するエネルギー』にしていくということだと思います」