洋上風力発電所の商用運転「日本における洋上風力発電所の展望」
更新日:2023年11月30日
出典:編集部にて撮影(能代港と岡垣社長)
世界をリードする欧州の洋上風力発電開発に携わった経験を持つ岡垣社長が、昨年(2022年)12月、能代港を舞台に日本初の商用洋上風力発電事業をスタートさせました。その過程において、乗り越える必要があったであろうさまざまな課題、地元との協力関係にはじまり、日本における洋上風力発電の展望について、全3回にわたって岡垣社長にお話を伺いました。
洋上風力発電商用運転の立役者(1) 日本初、洋上風力発電の商用運用を能代から
洋上風力発電商用運転の立役者(2)地元の活性化なくして事業の成功なし
洋上風力発電商用運転の立役者(3)日本における洋上風力発電の展望 (この記事)
- この記事でお話を聞いた方
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- 秋田洋上風力発電株式会社 代表取締役社長 岡垣 啓司さん
- 1993年丸紅入社以来、一貫して電力分野に従事。日本企業として初めて洋上風力発電事業に参画した際、現地(英国)のプロジェクトマネージャーを担当。2020年3月より現職に就任。
出典:編集部にて撮影(岡垣社長)
- この記事の著者
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- エネルギーのまち能代 編集部
- 皆様は「洋上風力発電」をご存知でしょうか。秋田県能代(のしろ)市では、日本で初めての「大規模商業運転」が2022年から始まっています。
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2040年の国家目標に向けたモデルケースに
出典:iStock(写真はイメージです)
───政府は、2040年までに最大4,500万kWの洋上風力発電事業の案件形成を官民共同により達成するという目標を掲げています。この達成に向けて御社が担うべき役割をどのように捉えていますか。
「弊社としては、日本第一号案件の大型洋上風力発電事業者として、今後も事業の遂行を通して先駆的取り組みの事例を示して行きたい。それにより、今後の日本における洋上風力発電事業のモデルケースとなり、導入拡大につながるよう貢献していくのが役割であると考えています」
「すべてが日本初の取り組みでしたので、基地港湾の使用の仕方、SEP船※という特殊な船を使った基礎や風車の据え付け、海上保安庁、消防等との連携による救助体制など、すべてが今後のモデルケースになると考えています」
※SEP船:Self-Elevating Platform(自己昇降式作業台船)の略
───一方で、国に求めたいことはありますか。
「国に求められる一番大事なところは案件形成力です。着実に案件形成を継続していくことだと思います。特に初期段階の地元での事前調整において、国が地方自治体と緊密に連携して、手厚い支援をしながら円滑な案件形成を促すことが求められると考えています」
───漁協の方とお話していると、洋上風力発電に協力しながらも複雑な気持ちもあるようです。
「はい。洋上風力発電所が漁業に負の影響を与えるかどうかは、非常に難しい問題です。欧州では20年以上の実績がある中で、漁業に対する負の影響というのは決して顕著なデータとして示されていないのが実態です。日本で言えば、長崎県に設置してから10年以上経っている浮体式の洋上風力発電所が数は少ないけれどあるという中で、新たな魚礁となり、漁場を形成しているという報告もあります。しっかりと冷静に説明して理解していただいて、協調を図る方向性で考えていけば良いのではないかと思います」
洋上風力発電所運転における事業コスト抑制の方法論
───事業コストの低減も大きな課題とお聞きします。コストを抑える観点から、地元企業の参入可能性などはどのようにお考えでしょうか。
「事業コストの低減は洋上風力発電の導入拡大に不可欠で、国内調達比率向上のために地元企業の参入が最も望ましい形です。一方で、それぞれの地元の産業基盤・特性に応じて選択的に分野を特定して参入を図ることが、結果としてコスト低減の実現につながると考えています」
「能代でいうと、重厚長大産業基盤はないものの、基地港湾があるという立地の優位性があります。近隣に発電所もあり、青森県や北海道に近いというメリットもあります。ですので、例えば新たに企業が能代に進出して基盤となる産業を起こすというのが現実性が高いのではないかと思っています。立地特性の優位性は間違いなくあります」
「洋上風力発電所の建設は基地港湾でしかできないので、今後、基地港湾は長期にわたって活用されていきます。基地港湾に近いということは、物流面、工期、コストも含めて効率的に運用できますので、その優位性を活かして新たな産業基盤を形成するということが期待としてあります」
───今後、港湾内から一般海域へと計画が進んでいくわけですが、事業コスト増大などの問題はあるのでしょうか。
「陸から遠くなればなるほど、やはり送電線の距離は長くなるので、その分コストは上がります。また、同様にメンテナンス作業もやはり遠くなるので、当然コストは上がっていきます。反面、洋上風力発電の大きな特徴としての大型化スケールメリットを今後は出していけますので、コスト増を相殺して、あるいはそれ以上の効果が十分期待できると考えています。つまり、大型化すればするほど風車の数が減らせます。基数が少なくなることによって工事やメンテナンスも楽になる。単価も下がる。スケールメリットによるコスト低減。これを洋上風力発電は図っていかないと、導入の拡大はできないと思います」
浮体式基礎で国際競争に勝機
───洋上風力後進国と言われる日本ですが、浮体式という分野では勝機があるのではないかという話を聞きます。国際競争を勝ち抜く戦略などについてお聞かせください。
「まず、日本は先行するヨーロッパに比べて20年以上の遅れを取っていることは事実です。そのため、汎用品ではなく技術的に差別化できる部材の開発・生産に集中することが現実的と考えています。その筆頭格として、まだ世界的にも技術開発途上にある浮体式基礎が挙げられると考えていまして、遠浅海域が狭い日本国内にとどまらず、世界的に洋上風力発電が拡大していく中でゲームチェンジャーに成長することも期待されます」
───もう少し詳しく教えていただけますか。
「着床式の基礎というのは水深50mくらいが技術的限界と言われているのですが、ヨーロッパは大陸棚地形のため、かなり遠方に行っても水深が浅く、これまで何千本という洋上風車が建っていますけれど、限りなく着床式でやっています」
「一方で世界全体を見れば遠浅海域というのはそう多くはありません。日本で言えば場所によっては数キロ行ったら水深が100〜200mになります。着床式で風車が建てられる海域には限りがあるのです。そのため、浮体式の技術を確立する必要性がありますし、世界的にこの浮体式の技術は商業規模まで至っていないので、将来的な輸出産業として大きな期待が持てるということです」
───日本の技術力で戦っていけますか。
「間違いなく欧米との技術競争にはなると思いますので、簡単ではないと思いますけれど、ただ簡単には真似できない技術だと思うので、そこは日本の技術力で勝負できると思っています」
───洋上風力発電所を新たな観光資源として活かすというお話があると思いますが、どのようにお考えですか。
「まず洋上風力発電というのは今後、再生可能エネルギーの基幹となっていく方式ですので、その最先端の地として十分観光資源になるという考え方があります。船に乗って風車のそばまで行って見学するという純粋な観光もありますし、視察目的で人が来るというのもあります。人が訪れることによって経済的な効果も生まれるだろうし、それを活用して地元の農水産業も恩恵を受けることも考えられます」
───最後になりますが、岡垣社長のこれからの夢をお聞かせください。
「この洋上風力発電という事業は、世界的に喫緊の課題となっている気候変動問題の解決に大きく貢献できるものと考えています。幸い私自身がこの洋上風力発電に携わることができたことを嬉しく思いますし、今後この洋上風力発電に限らず、いまの世界が目指す脱炭素社会に貢献できるような仕事を続けられれば私としては光栄だと考えています」