洋上風力発電所が設置できる3つの条件
更新日:2023年10月30日
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日本における洋上風力発電促進区域は8か所(2022年9月30日時点)。その一つに能代市も含まれており、日本初の大規模商業洋上風力発電所が稼働しています。「洋上風力発電所」を設置できる場所に、「洋上ならでは」の地域や条件はあるのでしょうか。今回の記事では風力発電所を建設するときに考慮されている条件を解説します。
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- エネルギーのまち能代 編集部
- 皆様は「洋上風力発電」をご存知でしょうか。秋田県能代(のしろ)市では、日本で初めての「大規模商業運転」が2022年から始まっています。
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洋上風力発電の促進区域認定の条件
洋上風力発電を稼働させるためには、海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域利用の促進に関する法律(以下、「再エネ海域利用法」とします)に基づいた、「再生可能エネルギー発電設備整備促進区域」(以下、「促進区域」とします)に指定されなければなりません。
洋上風力発電について調べると必ずと言ってよいほど出てくる、「再エネ海域利用法」。現在の日本では、洋上風力発電の設置・稼働のルールがありません。特に、海域の占有に関する統一的なルールと、漁業関係者や海運会社等の先行利用者との調整の枠組みがないことが課題となっています。
そのため、再エネ海域利用法で、促進地域の指定をすることが定められました。
洋上風力促進区域
一般海域のうち、以下の条件を満たした区域を指します。
1. 自然条件が適当であること
2. 漁業や海運業に支障がでないこと
3. 適切な系統接続(発電した電気を送電線に接続し電気を流すこと)であること
これらは具体的にどういった条件なのか。次の章より解説していきます。
自然条件として風速が一定以上が必要
洋上風力発電の導入を検討する際に最も重要な基本条件が風況ですが、その他にも水深、地盤などの条件も考慮されます。事業性があるとされる平均風速は7m/hとされ、着床式洋上風力発電(※着床式は海底に柱を立ててその上に風車を置く方式。海底に柱を立てない浮体式洋上風力発電も注目されています。)を検討する場合は、海底に柱を立てるため、比較的コストが安くて済む水深30m以浅の区域に設置すると、事業性が高いと考えられています。
また、促進区域での発電は、相当程度の出力の量が見込まれることが条件です。国内外の事例、区域ごとの事情や競争性確保の観点から、効率的な事業の実施が可能な規模であることが求められます。
資源エネルギー庁と港湾局が公開している、『海洋再生エネルギー発電設備整備促進区域指定ガイドライン』(以下、「ガイドライン」といいます)によれば、ヨーロッパ主要国では、これまでに設置・入札対象となった洋上風力発電1区域あたりの平均容量は35万kWです。陸上風力の場合は、3万kW以上の案件では、より低い事業費で事業が実施されていることが確認されていますので、規模が大きいほど運用効率は良くなることがわかります。
能代市の場合、能代市沖では7.0~7.8m/sの風速が確認されています。
洋上では陸上と違って障害物がないことから強く安定した風が吹いています。また騒音や景観の制限が少ないため、大型風車を複数基設置することが可能で、大規模発電を行えるために陸上風力発電所よりも発電効率が高くなります。
秋田県能代沖では、84mW(8.4万kW)の容量を有しています。
漁業関係者などの先行利用者への配慮も重要な条件
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海には、漁業関係者や海運会社などの先行利用者がいます。その人たちの経済活動を含む、様々な活動に支障が出ない見込みがあることが、促進区域に指定される2つ目の条件です。周辺の航路や港湾の利用保全等に支障が出ないような、適切な発電設備の配置ができることが求められます。
例えば、海運業などの大型船の通航に関わる事業への配慮としては、次の通りです。
- 1.大型船が頻繁に通航する海域は避け、適切な距離を取ること
- 2.開発保全航路や緊急確保航路の区域と重複しないこと。また、周辺港湾の大型船の入出港に著しい支障を及ぼさないこと
- 3.促進区域内の発電設備の設置、メンテナンスに必要な船の通行が適切にできること
- 4.発電設備が、適切な性能を発揮可能な発電設備間の距離が適切に確保できること
同様に、漁業への配慮も必要となってきます。
- 1.漁業団体との「漁業への支障はない」ことへの確認がされていること
- 2.漁業と洋上風力発電の協調、共生についても議論すること
その他、港湾法や漁港漁場整備法等の規定により、国や都道府県が指定している保護区域や指定された区域・水域との重複がないことなども、適地としての素質が問われるファクターです。
発電設備の安定運用も必須条件
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検討している区域がどんなに自然条件で合致していて、先行利用者との合意が取れていたとしても、安定した電力の生産と供給ができなければ、適地とは言えません。
では、電力を安定して生産・供給するための条件とは、具体的にはどのようなものでしょうか。これには、発電設備を設置・維持するための港湾環境と、系統接続(発電した電気を配電事業者等の送電線や配電線に流すために電力系統に接続すること)の適切な確保の2つの観点から判断されます。
この条件についてガイドラインに記載されている内容をわかりやすく説明すると、以下の通りになります。
- 1.促進地域への設置が見込まれる発電設備の規模と、作業船の能力を考慮した際に、発電設備が効率的に設置、維持管理ができる範囲内に基地となる港湾があること。
※例えば、作業船が往復20kmできる能力を持っているとすれば、片道10km以内に港湾がある、というイメージです。
- 2.港湾には、資材や部品の輸入に使用できる岸壁や、発電設備の規模等に応じて、それに耐えうる適切な耐荷重や広さの用地があること。
※促進区域や有望区域に行くと、港湾が埋め立てられ土地を広げていく風景を見ることがありますが、この要件を満たすための対応です。
- 3.設置する発電設備の規模に応じて、暫定的な系統容量が確保されること
- 4.確保している系統が、促進地域指定後に開始される事業に使われる前提であること
促進区域の候補を探す際は、NEDOが提供する洋上風況マップから風況をチェックします。洋上風況マップは、年平均風速ごとの風況情報の他、藻場やサンゴ礁などの自然環境保護区域であるかどうか、国や都道府県で定められた、促進区域にできない地域かどうかなどがわかります。
洋上風況マップを使って、促進区域となりうるのかをある程度把握することができますが、加えて、風車の運転を阻害する要因となりうる台風や冬季雷等の気象条件等も有望区域(促進区域の指定は受けていないが、必要条件を満たす見込みがある区域)の選定に影響します。
有望海域を選定したら、海上風の観測データの収集と、直接観測によるNEDOが発表しているレポートによると、収集すべきデータは風向・風速の1時間値で、少なくとも月別の平均風速と年間の風向き出現数を把握できなければならず、最低でも1年、気象学的な過去10年以上のつき平均風速や、年平均風速のデータ収集が必要だとのことでした。
精度の高い方法は「風況観測タワー」を設置して、風車の建設予定地の実測値を計測する方法です。風況を観測するための鉄塔に風速計や風向計を取り付けて、直接観測を行います。
適地条件は自然環境だけではない
持続可能な洋上風力発電事業とするためには、環境への配慮という側面だけではなく、事業当事者やその周辺の利害関係者の経済活動など、多面的な角度で適地選定が必要です。
今回は、洋上風力発電の適地条件は、自然条件だけではなく、利用区域のステークホルダーの理解や、系統接続環境も重視されることをお伝えしました。
<ポイント>能代市での洋上風況調査実験
風況調査の方法は、現在も様々な研究が行われていますが、能代市の洋上風力発電では、大林組と地元企業の大森建設により風況観測のための技術開発実験が行われています。風況調査を低コストかつ高精度で行うための取り組みです。
両社が持つ風況観測に関する技術を持ち寄り、上空の風を観測する「ドップラーライダー」という装置を浮体に設置する、洋上風況観測技術の確立を目指したものです。この技術は大林組が東京スカイツリー建設時に使用した上空の風予報システムを開発したノウハウなどが活用されています。
この研究で得られた知見は、日本の海域での洋上風況の観測手法を解説するNEDO「洋上風況観測ガイドブック」にも掲載されています。
出典:[大林組]から提供