風力発電所の設置条件・場所
更新日:2023年10月30日
陸上風力発電所(写真はイメージです)出典:iStock
山の上や海沿いの道で見かけることがある、陸上風力発電。陸上の風車は、どのようなところに設置されるのでしょうか。風力発電所は、風が強いだけの場所では設置ができません。今回は風力発電所を建設する際のカギと言われている「3つの道」をご紹介。「陸上風力発電」の設置条件についてお伝えします。
- この記事の著者
- エネルギーのまち能代 編集部
- 皆様は「洋上風力発電」をご存知でしょうか。秋田県能代(のしろ)市では、日本で初めての「大規模商業運転」が2022年から始まっています。
このサイトでは風力発電の話題はもちろん、再生可能エネルギーや環境問題についても幅広く解説しています!洋上風力発電で未来をひらく、能代の「いま」をご覧ください。
もくじ
陸上風力設置条件である「3つの道」
陸上風力発電区域を検討する際、考慮しなければならない条件とは何でしょうか。
陸上風力発電所の設置には、「国の基準」と「各都道府県の基準」の、2つの基準をクリアしなければなりません。環境省が公表している『地域脱炭素のための促進区域設定等に向けたハンドブック(第2版)』(2022年6月)によれば、国の基準と都道府県の基準は以下のように整理されています。
市区町村が考慮すべき事項も含め、環境保全等の基本的な配慮事項は国の基準が前提となりますが、地域特性によって変わる条件は、各都道府県が独自に設定できます。
このような条件をクリアしながら、検討している区域で、「風力発電所の建設ができるのか」「送電も含め、正常に稼働ができるのか」を確認することは、事業を継続するうえで重要なファクターです。特に、風力発電所を建てるには、「風の道」「車の道」「電気の道」の3つの道が必要といわれています。それぞれの道について詳しくみてみましょう。
風力発電所を建てるための「風の道」
陸上風力発電の促進区域として指定されるためには、区域の広さや条件に応じて適切な発電量が見込めなければなりません。その検証のため、十分な風があるのか、風の通り道を阻害する要因はないかを調べます。
これを風況調査といいますが、事業を開始する前に最低でも12ヵ月、通常は1年半程かけて風向きや平均風速などの調査を行います。日本では季節によって風の強さや、吹き方が大きく変化するため、年間を通した調査が必要となります。
風況調査の方法で一番精度の高い方法は「風況観測タワー」を設置して、風車の建設予定地の実測値を計測する方法です。設置予定の風車のハブ高さ(プロペラ軸の中心)の「風況観測タワー」を建て、そこに風速計や風向計を取り付けて、直接観測を行います。
近年は風車の大型化が進んでいてハブ高さが100mに到達する場合もあるため、「風況観測タワー」だけでなく、レーザー観測機なども併用して風況調査を行うこともあります。
風力発電所を建てるための「車の道」
陸上風力発電の単基あたりの平均風車出力は増加の傾向にあり、2016~2017年には1基あたり2.0MWだった出力スペックが、2020~2021年では2.8MWとなりました。これに伴い、風車の大型化が進んでおり、2016~2017年は85.7mだった平均ローター直径も、2020年~2021年には100.3mとなりました。(自然エネルギー財団『日本の陸上風力発電の 技術動向とコストに関する分析 』2022年3月)
ブレードをはじめとした風車の部品は、サイズが大きく資材の輸送条件の制約が大きくなります。
風車の多くは海外から輸入している為、まずは分割された風車の部品(タワー、ブレード、ナセルなど)を海上輸送で近隣の港へ運びます。そこから専用の大型車両で建設現場まで陸上にて運搬されます。
山間部に風車を設置する場合、長さ40~50mにもなるブレード(羽根)などを、障害物を避けながら輸送しなければなりません。搬入が出来ない場合には、道路を新設し部材の搬入を行うこともあります。
このような条件から計画を建てるときに、風車を建設予定地まで運べる道路があるか「車の道」を事前に確認する必要があります。
風力発電所を建てるための「電気の道」
風力発電所を建設できて発電ができると、送電の問題が残ります。
風力発電所で出力された電気を売電できる状態にするには、電力会社が持つ既存の電力系統に接続しなければなりません。ここでいう既存の電力系統は、例えば鉄塔です。
風力発電所で出力された電気は、地中に埋められた送電線から送られ、連系変電所で昇圧されたうえで既存電力系統に接続されます。既存電力系統までの距離が遠い場合は、連系変電所で系統が対応できる電圧で送電できるように、発電所と連系変電所の間に、中継変電所を設けて昇圧して電圧を保ちます。
系統の電圧は電力会社や連系場所により異なるので、変電所を介して電圧を変えて送電する必要があります。
風力発電事業では、風車で作られた電気は事業者の負担で、電力系統まで繋げる決まりとなっています。風車から電力系統までの距離が遠いと、その分必要な送電線も長くなり建設コストがかかり、さらには、メンテナンスコストにも影響します。そのため、事業者は送電網の設置も意識したうえで建設区域を選定し、最適なルートや方法で送電線や変電所の設置を計画することが求められます。
これが、「電気の道」です。
日本の陸上風力発電の未来
風車を建てる際は「風の道」が重要であるとお伝えしましたが、もともと風力発電は再生可能エネルギーの中では、水力の次にエネルギー変換効率が高い発電方式です。
風況や送電環境など、条件がそろえば、風力発電は40%の変換効率があるため、世界中で導入が進んでいます。風力発電の盛んな欧州では発電コストの低減化に成功し、落札額が10円/kWhを切る事例も出ています。
日本では、風力発電の導入が開始されてから20年近く経過していて各地の発電所で風車の建て替えを行うべきかという議論が始まっています。発電効率の良い大型風車へ建て替えて事業を継続させるのか、また、その採算性など、検討する事項は多岐にわたります。
陸上風力発電設置条件・設置場所のまとめ
風力発電所の設置条件のひとつ「電気の道」(写真はイメージです)出典:iStock
陸上風力発電は、環境の配慮だけではなく設置と運転も視野に入れた計画が必須です。持続可能な事業とするため、長期的な視点を取り入れながら検討をしたいところです。
そのための3つの道が意識されているか。促進区域の事例を調べる際など、観点の1つとしてみるのはいかがでしょうか。