能代市の洋上風力発電(2) フロントランナーとしての知見を全国に
更新日:2024年11月30日
能代市は洋上風力発電事業のフロントランナー
出典:能代市より提供
洋上風力発電事業の成功には、事業者の努力だけではなく、地元の方々の理解や協力が不可欠です。円滑な事業推進のために、自治体として何をしていけばよいのか。洋上風力発電事業のフロントランナーとして進んできた能代市の今を、エネルギー産業政策課の方々に話を聞いてきました。
能代市の洋上風力発電(1) 「ワンストップサポート」と「地元ならではの情報提供」という意識が事業者と地元の協力体制に繋がる
能代市の洋上風力発電(2) フロントランナーとしての知見を全国に(この記事)
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- エネルギーのまち能代 編集部
- 皆様は「洋上風力発電」をご存知でしょうか。秋田県能代(のしろ)市では、日本で初めての「大規模商業運転」が2022年から始まっています。
このサイトでは風力発電の話題はもちろん、再生可能エネルギーや環境問題についても幅広く解説しています!洋上風力発電で未来をひらく、能代の「いま」をご覧ください。
もくじ
地元の理解を得るためのSPC(特別目的会社)の動きが重要
能代港の風景
出典:編集部にて撮影
能代港での洋上風力発電事業ではSPC(特別目的会社)として秋田洋上風力発電株式会社(AOW)が設立され、商社、ゼネコン、地元の建設会社等、13社が出資しました。このSPCであるAOWと地元との関係は良好で、トラブルや市への相談などもないそうです。
エネルギー産業政策課は、AOW社への印象についてこう語ります。
「今回のプロジェクトでは、AOW社の本社が能代市に設立される以前からとても能動的に地域にも足を運んで頂きました。地域を回って課題等が見つかった場合には、能代市の担当者である我々に相談をこまめにしていただくなど、密に情報交換を重ねてまいりました。
SPCの構成企業13社のうち、半分以上の7社が地元秋田の企業となっています。地域とのコミュニケーションを大切にする姿勢のもと、地元企業が事業に参画できるような動きをしていただいたと思います。」
「このプロジェクトでは、技術的に可能な範囲で地元に発注するというAOW社の方針のもと建設工事を行った結果として、総事業費の約1割もの県内発注が実現しました。金額にして約100億円もの仕事が地域に生まれたことになります。メンテナンスにも地元企業が入っていることは、地元の理解を得るためにも必要だと考えています。」
SPC(特別目的会社)
特定の事業のために設立された法人で、企業の特定の資産を切り離し、特定の事業について、その資産だけを利用して運用することが主な目的です。プロジェクトファイナンスという資金調達の仕組みを使う際に設立しSPCで借入を行うことで、事業者自身が借入を行う必要がなくなります。特定の資産を切り分けることでリスクヘッジをしながら、資金調達ができるメリットがあります。
秋田港および能代港における洋上風力発電事業のSPC
・ 事業会社(SPC):秋田洋上風力発電株式会社
・ SPC出資者:計13社
丸紅株式会社、株式会社大林組クリーンエナジー、東北電力株式会社、
コスモエコパワー株式会社、関西電力株式会社、中部電力株式会社、
株式会社秋田銀行、大森建設株式会社、株式会社沢木組、株式会社加藤建設、
株式会社寒風、協和石油株式会社、三共株式会社洋上風力発電で増えた「能代弁ではない市外からの人々」
能代市の洋上風力発電所
出典:能代市より提供
洋上風力発電事業が始まって、市民の方の声からも地元の変化が感じ取れます。
「能代弁じゃない人や、(普段自分たちで使うものと)違う言葉の人がたくさん来るようになった」
「(能代市で事業を展開する企業の)お客さんが色んなところから来るようになった」
街の人たちも、少しずつ変化を感じている様子が垣間見えます。
その変化が顕著に見えるのがホテルの予約状況。能代港洋上風力発電所の稼働前後から視察等を目的とした県外の人たちの宿泊が増えたことで、ホテルも満室に近い稼働となっているようです。
能代市でも宿泊施設の客室数の不足に対応するため、宿泊業立地への優遇制度等、具体的な検討を進めています。
全国の自治体で情報共有ができる洋上風力発電市町村連絡協議会
洋上風力に関係する自治体間の連携に向けて「全国洋上風力発電市町村連絡協議会」を設立
出典:能代市より提供
2022年、再エネ海域利用法による促進区域に接する自治体6市2町(能代市含む)を発起人とした「全国洋上風力発電市町村連絡協議会」が設立されました。能代市長は会長として選出され、洋上風力発電の技術や地域振興策等について、23自治体(2024年11月時点)の会員間での情報の共有ができる場を提供しています。
こういった場で、能代市は洋上風力フロントランナーとしての経験を、他自治体に話す機会が増えています。
最近ではラウンド3が見込まれるエリア等からの相談を受けることもあり、全国で活性化し始めている洋上風力発電事業において、様々な課題への解があることは、フロントランナーならではの貢献だと思われます。
洋上風力フロントランナーとして『能代港だから』ではない知見も伝えたい
北九州市で開催した令和6年度視察研修会の様子
出典:能代市より提供
県外からの視察では、風力発電所を実際に見ることによる驚きの反応が多く、ポジティブな印象を受けられる方も多いと聞きます。
全国洋上風力発電市町村連絡協議会の事務局も務めるエネルギー産業政策課に、洋上風力フロントランナーとしての、他の自治体との関係性についても聞いてみました。
「全国洋上風力発電市町村連絡協議会では、地元への恩恵について情報交換することがあります。その事例を紹介すると、『能代は能代港があるからできるのではないか』という返答をいただくことがあります
もちろん地域の特性もありますが、『能代港だから』ではない部分も多分にあるとお伝えしています。例えばメンテナンスに関しては、大きい港ではなくても、メンテナンス船が出入りできる機能を持つ港であれば、地域の港を利用することもできると考えています。」
「視察に来られる方は、『自分たちの地域ではどうなのか』という視点を持ってこられる方も多いです。有名な景勝地を有する地域の方が視察に来られる際は、懐疑的な方もいらっしゃいます。
秋田県の場合、青森県との県境には県立公園、男鹿半島の先や山形県との県境には国定公園があり、こうしたエリアの沖合は洋上風力発電事業の区域には含まれていません。地域の自然や景観等への様々な配慮に関する事例をお伝えしながら情報交換をさせていただいています。」
「能代港の洋上風力発電の運転が始まって1年。建設工事からO&Mフェーズとなりました。
地元の会社が本事業に携わり、一部の市民の方々も事業に携われている。能代出身の方々がメンテナンスのスタッフとして活躍されている。
こうした地域への好影響は能代に限らず様々な地域で実現可能だということを示すことが、フロントランナーとしての役目だと考えています。
多くの地域の方から視察をしていただき、いろんな意見を新鮮な気持ちで聞くことができる、最先端の事業。我々は、いい仕事をさせていただいているな、と感じています。」