インタビュー

洋上風力発電第2ラウンド(ラウンド2)選定事業者インタビュー(1) フロントランナーとして背負う、日本の洋上風力発電の未来

更新日:2024年12月31日

八峰町能代市沖 出典:ENEOSリニューアブル・エナジーより提供

八峰町能代市沖
出典:ENEOSリニューアブル・エナジーより提供

 

洋上風力発電事業の第2ラウンド(ラウンド2)の舞台となった八峰町・能代市沖の勝者は、ENEOSリニューアブル・エナジー株式会社(以下、ERE)が率いる「合同会社八峰能代沖洋上風力」でした。
迅速性、実現性などが重視された第2ラウンドを成功させるために、どのような想いで取り組んでいるのか、同社にお話を伺いました。

連載記事:
洋上風力発電第2ラウンド(ラウンド2)選定事業者インタビュー(1) フロントランナーとして背負う、日本の洋上風力発電の未来
洋上風力発電第2ラウンド(ラウンド2)選定事業者インタビュー(2)洋上風力発電から見る風の街の未来

この記事でお話を聞いた方
ENEOSリニューアブル・エナジー株式会社のみなさん
(左から山田さん、土居さん、関谷さん) ENEOSリニューアブル・エナジー社前で
出典:編集部にて撮影
この記事の著者
エネルギーのまち能代 編集部
皆様は「洋上風力発電」をご存知でしょうか。秋田県能代(のしろ)市では、日本で初めての「大規模商業運転」が2022年から始まっています。
このサイトでは風力発電の話題はもちろん、再生可能エネルギーや環境問題についても幅広く解説しています!洋上風力発電で未来をひらく、能代の「いま」をご覧ください。

洋上風力発電を通じて幸せな社会を作る

能代市・三種町の再生可能エネルギー 出典: ENEOSリニューアブル・エナジーより提供

能代市・三種町の再生可能エネルギー
出典: ENEOSリニューアブル・エナジーより提供

 

― EREは、どのような会社ですか?

 EREは、20128月に立ち上がったジャパン・リニューアブル・エナジー株式会社(JRE)を前身とした会社です。JREは太陽光、風力、バイオマス発電等を中心とした再生可能エネルギー事業を行っておりましたが、2023年1月にENEOSグループの一員となり、2024年4月の組織改編を経て、現在の組織になっています。

― 再生可能エネルギー事業には、どのような想いで取り組んでいるのでしょうか。

 私たちは企業理念として、「再生可能エネルギーで世界を変える」と掲げています。
 これってどういうことかというと、今の世代が抱えるエネルギーの課題を、子どもや孫の世代にまで残さない、ということなんです。
 今、猛暑で子どもたちが外で遊べなくなったり、プールの授業が中止になってしまったりしています。一方で、コロナ禍での生活において実感された方も多いと思いますが、外出制限などでいつもできていたことができなくなった経験をしました。地球温暖化による生活の影響もこれに近いところがあると思います。
 今の延長上で温暖化が進むと、今当たり前にできていることができなくなる。再生可能エネルギーで、今過ごせている日常を守っていくことが、私たちの使命だと考えています。


― 社会を変える、という観点ではどうでしょう。

 再生可能エネルギーって、土地や風もそうなんですけど、従来活かしきれていなかった資源を活用していくことで、新しい価値が生まれると思っています。今まで使われていなかった太陽光や風などの資源を活用して、産業を作っていくことで、地元に雇用や税金の増収など、いろんな形で波及効果が生まれます。
 洋上風力発電事業の場合は特に、事業者選定のプロセスにおいて地域貢献策が非常に重視されていますが、この点はもともと私たちが再生可能エネルギー事業を行うにあたり大切に考えていたことです。また、長い時間をかけて地域の皆さんと対話しながら事業を作っていくうちに、私たちも地元のファンになっていきます。事業を運営していく中でできるだけ恩返しをして、その結果、良い社会が作れたらいいなと思っています。

 

日本の洋上風力発電ポテンシャルをフルに引き出す

洋上風力発電所・安全性向上のためのセキュアラダー 出典:ENEOSリニューアブル・エナジーより提供

洋上風力発電所・安全性向上のためのセキュアラダー
出典:ENEOSリニューアブル・エナジーより提供

 

― 様々な再生可能エネルギー事業を手掛けていますが、その中でも洋上風力発電の可能性は、どう考えられていますか。

 洋上風力発電は、陸上よりも効率が良く、大規模開発がしやすい発電方式です。日本は長い海岸線に恵まれており、EEZも含めるとポテンシャルとしては1,547GWを有しています。これは、日本で必要な電気を洋上風力発電だけで賄えるほどの量です。様々な発電方法の中でもポテンシャルが大きく、今後の主流になっていくだろうと考えています。

― 洋上風力発電は、日本は世界に後れをとっている印象があります。

 着床式でいえば確かに欧米の方が進んでいます。しかし、実は日本は、世界に先駆けて浮体式洋上風力の実証実験を行っています。遠浅な海域が多い欧米では、着床式が普及したものの、水深の深いエリアでは、浮体式洋上風力が求められます。ここに、日本が世界をリードできる可能性を感じています。
 浮体式はまだ世界の黎明期です。技術的なハードルが高い中でいち早く取り組んで、フロントランナーとしてノウハウを貯めていき、他社の追随を許さない、そういうことを目指したい。そういう想いが、会社としてあります。

 

― 日本の洋上風力発電の未来に向けた技術開発もされていますね。

 風況観測手法や安全性の向上といった部分での技術開発を行ってきました。

・ 風況の観測手法

 洋上風力発電は、欧米で発展した技術が中心です。しかし、風況条件が異なる地域では欧米で培った技術をそのまま当てはめる事はできません。さらに、日本の場合はウインドファームを立てる際に必要な許認可を得るのに、認証機関に定められたデータの質を維持しなければいけません。
 数十km沖合の欧米のウインドファームに比べ日本では陸地から数kmしか離れていないため、陸地の影響による風の乱れの観測が重要になります。でも、そのデータを現実的なコストで取る手法が欧米にはありませんでした。だから私たちは、欧米とは異なる日本の海況でも観測できる風況の観測手法を研究・開発しています。日本に合った風況の測り方を作り上げていくことで、欧米の海象条件と異なる海域で発電できる可能性が広がり、洋上風力のポテンシャルを高めていけるのではないかと思っています。


・ 安全性の向上

 洋上風力発電所の建設とメンテナンスは海の上で行うため危険が伴います。作業員の安全を確保することは、洋上風力発電普及の必須条件。そのため、私たちは安全性向上に向けた取り組みを行っています。
 例えば、作業員が安全に船と風車を移動できる装置の開発が挙げられます。
 海洋構造物にアクセスする際、通常は船で移動し、海洋構造物に設置されている梯子を使って昇降します。梯子と船の間には、作業員が挟まれないようにセーフティーゾーンが設けられていますが、このスペースがあると、波風で船が大きく揺れた時に海面に作業員が落下してしまう恐れがありました。この問題を解決するために2対の梯子を海洋構造物に対して直角に配置し、セーフティーゾーンの確保と落水防止を同時に解決する梯子「セキュアラダー」を、他社と共同開発しました。


― 日本の洋上風力発電の未来に向けた、人材育成にも力を入れていると聞いています。

 大きなポテンシャルを持っている洋上風力ですが、そのポテンシャルに比べて日本ではその仕事についている人はまだ少なく、将来においても人材が不足するということは、業界共通の認識です。そのため、まずは業界として大学生や高等専門学校生など若い世代を中心に興味を持ってもらう機会作りを行っています。
 人材育成は、SPCのパートナーと共同で取り組んでいます。東北電力が持つトレーニングセンターで訓練を行い、イベルドローラが保有・運転する海外のプロジェクトで実践の場に出て、経験を積む。訓練の場と実践の場を連続して行い経験値を増やすことができる。自社にとどまらずSPCのパートナーが協力して人材育成に取り組むことができるのは、我々コンソーシアムの強みだと思っています。

 

八峰町能代市沖での洋上風力発電事業第2ラウンド(ラウンド2)参入

山田さん「計画は、精度にこだわった」 出典:編集部にて撮影

山田さん「計画は、精度にこだわった」
出典:編集部にて撮影

 

― 第2ラウンドでは評価基準が変わり、迅速性も重視されるようになりました。

 我々は、第2ラウンドでは事業実現性を意識して計画を進めてきました。八峰町能代市沖が促進区域に指定される前から、この地域での詳しい地盤調査や、地域の関係者の方々との細かなコミュニケーションを進めており、精度の高い事業計画を作ってきました。
 迅速性は、実現性との掛け算です。迅速性で高い評価をいただきましたが、これは、実現性の高いプランを練ってきたからこそと考えています。
 事業計画を可能な限り緻密に丁寧に検討してきたため、公募の途中で評価基準は変わりましたが、計画の大きな変更を強いられる等の影響はあまりありませんでした。

 

洋上風力発電第2ラウンドSPC構成のコンセプト

合同会社八峰能代沖洋上風力のみなさん 出典:編集部にて撮影

合同会社八峰能代沖洋上風力のみなさん
出典:編集部にて撮影

 

― 事業の実現性を重視するとき、SPCの構成も重要になってきますよね。

 SPCにおける各社の役割はありますね。EREはこの地域で早くから事業調査や検討を始めていて、日本全国でプロジェクトを持っている知見を活かし、八峰町及び能代市沖の事業全体のとりまとめを行う役割です。イベルドローラ社は欧州を始めとして色々な国で様々な経験をしています。彼らが本事業に参入することで、世界で先行している技術や知見を日本に持ち込めるようになります。東北電力は東北地方、新潟県で長年発電所の開発・運転や電力関係の事業を行っているので、環境面などの地域特性を熟知している、というようなところです。    
 地元の方も多く勤め、地域の会社である秋田銀行は、本事業にとって心強い地域のパートナーです。2017年から入って、地元の方や企業など、様々な方とコミュニケーションを重ねる中で、地域貢献策の立案時に地域に関するアドバイスをもらっていました。安心できるパートナーだと思っています。


― それぞれが高い専門性を持っていて、集合知として長所をかしあえるメンバー構成なのですね

 今回、迅速性と実現性の精度を高めるために強く問われたのが、リスクマネジメントです。我々事業者が様々なリスクを想定して、その対応を考えなければいけない。例えば、世界で実績があるイベルドローラ社の経験値から、彼らはレッスンズ・ラーンドを積み上げてきているわけです。これならできる、これはできないというような細かな合意を取ることができるので、ヨーロッパでの事例や、それを踏まえた知見があるというのは心強いです。
 そういったパートナーの経験を計画に反映していることもありますので、計画段階から細かなリスクを想定して減らしていく。裏を返せば実現性が高まることにつながりますので、これが我々の強みだと思っています。

レッスンズ・ラーンド(lessons learned)
プロジェクトの最後に、振り返りを通じて得られる教訓を指す。レッスンズ・ラーンドを活かすことでミスを回避し、今後の仕事に関するリスクを最小限に抑えることができる。

― リスクはどこまで拾っていくのでしょうか

 運転面、環境面などのリスクはイメージしやすいかと思いますが、例えば、建設中のリスクなどもあるかと思います。海の工事を進めるときの船舶をリスクが少ない装備にするには何が必要なのかとか、船で働く人たちがきちんとした安全管理についての意識を持っているのかとか、事故を未然に防ぐという意味でのノウハウがイベルドローラには貯まっています。
 プロジェクトを確実に遂行するためには、できるだけリスクを把握しておかなければなりません。SPCの構成企業がそれぞれの専門知見を活かしながら、高い精度でリスクを洗い出し、あらかじめ手を打っていきたいと思います。

 

第2ラウンド選定事業者としての想い

合同会社八峰能代沖洋上風力のコンセプト画 出典:合同会社八峰能代沖洋上風力より提供

合同会社八峰能代沖洋上風力のコンセプト画
出典:合同会社八峰能代沖洋上風力より提供

 

― 第2ラウンドを進めるにあたっての想いを教えてください

 「いい風が、人と仕事を集めてつなぐ」
 このプロジェクトのコンセプトです。公募のときに出したものなのですが、まさにこの通りだと感じています。
 風をきっかけに地元の方との接点を持つことができて、その接点からまた新しいつながりが増えて、それが仕事につながってさらに新しい人とつながる。人と仕事がどんどん広がっていく将来がイメージできると感じていて、そうしたことが非常に重要であると感じています。
 このプロジェクトをぜひとも成功させて、本当にスローガンで謳った世界になっていくように努めていきたいと思います。

 

SPCの特徴と事業実施体制

合同会社八峰能代沖洋上風力の構成 出典:合同会社八峰能代沖洋上風力提供素材より編集部作成

合同会社八峰能代沖洋上風力の構成
出典:合同会社八峰能代沖洋上風力提供素材より編集部作成

 

SPC「合同会社八峰能代沖洋上風力」の特徴

  • ・欧州の洋上風力発電事業の先進ノウハウをERE、東北電力がローカライゼーションすることで、地元・国内事情に適合しつつ確実な事業実施が可能な体制を構築
  • ・類似施工経験を有する協力企業等の起用と各社からの実務経験を有する人材配置による強力なサポート体制

 

SPCへの出資各社

  • ・ENEOSリニューアブル・エナジー株式会社
     ・代表企業として事業の全体統括を担当 
     ・ENEOSホールディングス下の中核事業会社であり再生可能エネルギー発電所の開発・建設・運営を一貫して実施
     ・国内外合わせて1.2GW※の運転中発電所を保有
      ※2024年12月時点、持ち分ベース

  • ・イベルドローラ・リニューアブルズ・ジャパン株式会社
     ・事業全体の設計・施工・OMHSEQ(現場で事故が発生した場合に迅速かつ正確に対応するための活動)の管理を担当
     ・スペイン最大の電力事業会社であるイベルドローラ社の日本法人
     ・グループ全体で全世界42GW(洋上風力発電1.8GWを含む)の運転中再生可能エネルギー電源を保有
      ※持ち分ベース

  • ・東北電力株式会社
     ・陸上電気設備の設計・施工と子会社を通じたOMを担当
     ・総合電力会社としてグループ全体で発電から電力小売りまでを一貫して実施
     ・約2.8GW(東北電力グループ全体2024年3月末時点)の再生可能エネルギー設備を保有し、現在国内洋上風力を含めて約0.8GW※の新規開発に携わる
      ※持ち分ベース

  • ・株式会社秋田銀行
     ・洋上風力発電分野への県内企業参入をはじめとする地域貢献策を担当
     ・県内ネットワークを活用し、地域への高い経済波及効果実現に向けた取組を推進





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