地域と洋上風力発電

洋上風力発電(能代市・三種町・男鹿市沖)「地元との地域共生を目指して」選定事業者インタビュー

更新日:2024年3月31日

出典:秋田能代・三種・男鹿オフショアウィンド合同会社より提供

出典:秋田能代・三種・男鹿オフショアウィンド合同会社より提供

 

2028年12月、能代市・三種町及び男鹿市沖に新たな洋上風力発電所の運転が計画されています。日本初となる、一般海域における大型の洋上風力発電事業を手掛ける秋田能代・三種・男鹿オフショアウィンド合同会社は、どのような思いを持って事業に向き合っているのでしょうか。彼らが目指す地域共生の形について、インタビューしてみました。

・第1ラウンド(ラウンド1)選定事業者に聞く、能代市・三種町・男鹿市沖の洋上風力発電(1) 地元との地域共生を目指して
1ラウンド(ラウンド1)選定事業者に聞く、能代市・三種町・男鹿市沖の洋上風力発電(2) 日本初の一般海域事業に込められた想い 

この記事の著者
エネルギーのまち能代 編集部
皆様は「洋上風力発電」をご存知でしょうか。秋田県能代(のしろ)市では、日本で初めての「大規模商業運転」が2022年から始まっています。
このサイトでは風力発電の話題はもちろん、再生可能エネルギーや環境問題についても幅広く解説しています!洋上風力発電で未来をひらく、能代の「いま」をご覧ください。

能代市・三種町・男鹿市沖が舞台となった洋上風力発電事業第1ラウンドとは

能代市・三種町・男鹿市沖MAP 出典:GoogleMap

能代市・三種町・男鹿市沖MAP 出典:GoogleMap

 

洋上風力発電の第1ラウンドとは、再エネ海域利用法に基づいて国が定めた、促進区域での事業者選定の第1回目の公募のことです。ラウンド1とも呼ばれた公募では、秋田県能代市・三種町・男鹿市沖、秋田県由利本荘市沖、千葉県銚子市沖、長崎県五島市沖の4海域が対象となりました。

1ラウンドでは、浮体式の長崎県五島市沖を除く3海域すべてにおいて、三菱商事を中心としたコンソーシアムが採択されました。能代市・三種町・男鹿市沖の事業では、秋田能代・三種・男鹿オフショアウィンド合同会社が、特別目的会社(SPC)として設立され、202812月の運転開始に向け、開発が進められています。

1ラウンドについてもっと詳しく知りたい方はこちら
洋上風力発電事業の第2ラウンド公募結果は3事業者。第1ラウンドとの違いも解説

 

秋田能代・三種・男鹿合同会社が考える洋上風力発電事業のコンセプト

プロジェクト責任者の岩城さん 出典:編集部にて撮影

プロジェクト責任者の岩城さん 出典:編集部にて撮影

 

ー 洋上風力発電事業を進めるにあたってのコンセプトを教えてください



つぎを創る」をコンセプトに、持続可能な協調・共生策を地域の方と共に実現したいと考えています。これは、第1ラウンドの3海域に共通するコンセプトです。

このプロジェクトは、再エネ海域利用法で海域の占用期間30年が前提とされていますが、事業実績や地域への貢献等によって、延長することもできます。30年で終わり、ではなく、次の世代が恩恵を受けられるような、ずっと続けていける事業の基盤を創っていきたいという思いが込められています。

このコンセプトの実現には、地域で運用ができる地産地消の事業としていくことが必要です。まずは、直接事業に関わる方はもちろん、この地域にお住いの方皆様に、貢献することがその第一歩だと考えています。

能代市・三種町・男鹿市沖事業の地域共生イメージ 出典:秋田県能代市、三種町及び男鹿市沖公募占用計画の概要(経済産業省)

能代市・三種町・男鹿市沖事業の地域共生イメージ 出典:秋田県能代市、三種町及び男鹿市沖公募占用計画の概要(経済産業省)

 

そのため、私たちは漁業に対する「持続可能な漁業支援体制の構築」、漁業以外の産業領域に対する「地域産業・雇用の振興」、産業領域以外に対する「住民生活の支援」の三本柱での地域共生策を検討しています。
地域や自治体の方々によって、考え方や方針がありますので、地域の特性に合わせて進めていきたいと考えています。

地域共生策の3本柱 出典:秋田県能代市、三種町及び男鹿市沖公募占用計画の概要(経済産業省)

地域共生策の3本柱 出典:秋田県能代市、三種町及び男鹿市沖公募占用計画の概要(経済産業省)

 

1ラウンド洋上風力発電事業の地域共生策_能代市の地域共生の観点

能代市内の風景 出典:編集部にて撮影

能代市内の風景 出典:編集部にて撮影

 

ー能代市の場合、地域共生策を検討して進めるにあたってどのような観点をお持ちですか?



能代市に限らず、多くの自治体では、高齢化や若者の流出等による人口減少は地域の課題となっています。齋藤市長の言葉を借りれば、能代は立地に恵まれず、同じ東北内の移動でも時間がかかってしまう課題があると言います。
立地が不便な環境においては人口流出が起こりやすくなり、突き詰めれば移動手段がなくなり買い物難民が出てしまうなど、生活に直結する問題が起こりかねません。
ですので、地域産業の振興や、小さな雇用を数多く振興していくことで、この流れに歯止めをかけていけるのではないかと考えています。

 

1ラウンド洋上風力発電事業の地域共生策_地域産業・雇用の振興

能代港の洋上風力発電 出典:能代市より提供

能代港の洋上風力発電 出典:能代市より提供

 

ー地域産業や雇用の振興では、具体的にどのような取り組みをされているのでしょうか



洋上風力発電事業は、風車の建設や設置、海底や陸上でのケーブル設置など、様々な工程が組み合わさって進みます。さらに、完成すれば終わりではなく、O&Mと呼ばれる運用、メンテナンスが必要です。
私達が本事業で大切に考えているのは、『地産地消』。洋上風力発電事業に関与いただける国内や地元の方々が、一社でも、一人でも増えるようなサプライチェーンの構築ができるような取り組みを進めています。能代市・三種町・男鹿市沖をはじめとした第1ラウンドのプロジェクトでは、部品や設備に関連するものは地元の企業と取り組みを進めています。すでに、陸上ケーブルの据え付け工程は実際に地元企業への発注をしています。

 

ー元請け企業と地元企業とのマッチングも行っているのですよね



自治体とタイアップをして、関連する事業と地元企業のマッチングイベントを行っています。229日に秋田県、37日に能代市と連携して開催しました。
このプロジェクトでは、秋田能代・三種・男鹿オフショアウィンド社が、ゼネコン等の企業(元請企業)に業務を発注し、さらにそこから地元企業に仕事を発注する方針です。業務に関する説明会を行い、手を挙げていただいた地元の企業と元請企業とを繋ぎます。イベントによるマッチングだけではなく、元請企業と地元企業の引き合わせ等も、きめ細かく対応させていただいております。

※地元企業への発注スキームは、建設期間と運転期間のそれぞれで設定されている

建設期間の事業実施体制 出典:秋田県能代市、三種町及び男鹿市沖公募占用計画の概要(経済産業省)

建設期間の事業実施体制 出典:秋田県能代市、三種町及び男鹿市沖公募占用計画の概要(経済産業省)

 

こういったマッチングイベントは定常的にできないか、計画と検討を進めているところです。

1ラウンド洋上風力発電事業の地域共生策_地元住民に貢献するために

洋上風力発電 出典:編集部にて撮影

出典:編集部にて撮影

 

ー能代市に住む方々に向けた取り組みには、どのようなものがありますか?



洋上風力発電事業は、地元住民の方には直接的な関わりが見えづらい事業だと思います。ただ、地域の自治体、住民の皆様が抱える課題に対して、SPCを構成する企業や協力会社のリソースや強みを生かし、個々の課題やその時々の地域事情に合った形で向き合っていきたいと考えています。

 

1ラウンド委託事業者の能代市民への貢献策 : あきたかぜモンプロジェクト
「あきたかぜモンプロジェクト」は、秋田県の事業者がECサイトでの商品販売で、成功体験をしていただくことを目的としたプロジェクトです。
秋田県内の事業者が対象となるこのプロジェクトでは、秋田県内EC事業者であるノースコマース社の協力を得て、Amazon.ComでのEC販売に向けた、商品開発のサポートや売上アップにつながる支援を受けることができます。
※記事公開時においては、令和6年度の実施有無は不明

あきたかぜモンプロジェクト 出典:あきたかぜモンプロジェクト

あきたかぜモンプロジェクト 出典:あきたかぜモンプロジェクト

 

1ラウンド委託事業者の能代市民への貢献策 : オンデマンド乗合交通システム(コサクル)
令和511月~12月、北九州市で実証した知見を活かし、オンデマンド乗合交通システムの試験運用を行いました。北九州で実証した知見を活かし、令和5年11月から12月に、東雲地区、桧山西部地区、富田・外面地区、濁川地区、南部地区、北能代地区の6地区を中心にオンデマンド乗合交通システムの試験運用を行いました。「まちなかコサクル」とは、バスとタクシーの中間のような新しい公共交通で、電話かスマートフォンアプリで乗車予約をすると、指定した停留所で乗り降りできるため、買い物や通院、通学通勤などの生活シーンで利用が可能となります。AI技術による効率的な運行を実現しており、今後発生しうる生活移動の課題解消の一助となれるのではないかと思います。

予約制乗合タクシーコサクル 出典:能代市

予約制乗合タクシーコサクル 出典:能代市

 

1ラウンド委託事業者の能代市民への貢献策 : スマート農業実証
NTTドコモ社と共同で行ったこの実証は、能代の特産である白神ねぎの生産性向上や農家の負担軽減を目的として行われました。圃場・育苗センサーで圃場の監視を行いながら育成ノウハウ等のデータ化・活用をすることで、人手不足の解消や生産性の向上を目指すものでした。

スマート農業実証支援 出典:秋田能代・三種・男鹿オフショアウィンド合同会社より提供

スマート農業実証支援 出典:秋田能代・三種・男鹿オフショアウィンド合同会社より提供

 

地域と共に"つぎ"を創る_30年後の能代のために

岩城さん 出典:編集部にて撮影

出典:編集部にて撮影

 

ー多くの人と関わり事業を進める中で、地域の方々とのかかわりの中で意識していることを教えてください



大事だと思っていることは、私たちが「地域の一員」として受け入れていただくことだと思っています。今、能代ではたくさんの日本初が起ころうとしています。一般海域での洋上風力発電事業もそのひとつ。当然、いろんな不安や懸念があると思っています。
この事業を30年先も続くものに育てていくことを考えると、やはり、地産地消型の事業として進めていくことが必要です。そのために、地元の方々に理解を頂くことは最重要です。だからこそ、ご理解、ご納得いただくために何度でも、丁寧に説明し、対応させていただきたいと思っています。

 

30年先の地産地消型事業を実現した能代市のために、何が大切ですか?



30
年後の未来の姿を、地域の方々がイメージできるようになることが大切だと思っています。能代は今、再エネ産業で注目をされていますが、再エネ産業に留まらない、様々な関連産業の誘致ができるポテンシャルを持っています。
グリーンエネルギーの利活用の環境が整えば、例えば、GAFAGoogle,Amazon,Facebook,Apple)が取り扱う世界規模のデータを管理するデータセンターや、関連部品をつくる基盤が出来上がるなど、その可能性はさらに広がっていくと思います。こういった世界を、地元の方々が引っ張っていく環境をつくっていきたい。

この考えに賛同いただいたAmazon社と一緒に、地域共生の教育コンテンツを授業に組み込んだり、出前教室という形で、風車を使った風力発電モデルづくりをしています。気候変動問題やSDGsの要素も取り入れながら、STEAM教育の一環として、子どもたちのやわらかい頭で未来を想像してもらえるような人材育成の取り組みも行っています。

浅内小のSTEAM教育風景 出典:秋田能代・三種・男鹿オフショアウィンド合同会社より提供

浅内小のSTEAM教育風景 出典:秋田能代・三種・男鹿オフショアウィンド合同会社より提供

 

STEAM教育

科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、芸術・リベラルアーツ(Arts)、数学(Mathematics)の5つの領域を対象とした理数教育に創造性教育を加えた教育理念。それぞれの頭文字をとった造語です。知る(探究)とつくる(創造)のサイクルを生み出す、分野横断的に学べることが特徴です。
体験の中でさまざまな課題を見つけ、クリエイティブな発想で問題解決を創造、実現していくための手段を身につけることで、社会とテクノロジーが密接に結びつくこれからのAI時代に、必要な能力開発のトレーニングとして重要視されています。

 

強く感じているのは、新しい取り組みが始まっていますが、能代に住む方々が「街が変わった」「生活が良くなった」と実感を持っていただいて、初めて地域の一員になれるのだろう、ということです。そう思っていただける日が来ることを期待しながら、いま、少しずつ地域の方との関係を積み上げていけたらと思っています。

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