化石燃料に代わる 「アンモニア発電」とは?
更新日:2023年10月30日
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カーボンニュートラルの達成に向けて、次世代エネルギーの導入が期待されています。注目は刺激的な匂いが特徴の「アンモニア」。実はアンモニア発電は水素エネルギーと共に、CO2削減の切り札となる可能性を秘めています。この記事では、アンモニア発電のメリットや課題についてお伝えします。
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- エネルギーのまち能代 編集部
- 皆様は「洋上風力発電」をご存知でしょうか。秋田県能代(のしろ)市では、日本で初めての「大規模商業運転」が2022年から始まっています。
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もくじ
アンモニア発電の材料はもちろんアンモニア
アンモニア(NH3)とは、皆さんもご存知のように強い刺激臭を持つ、常温では無色透明の気体です。水素(H)と窒素(N)で構成され、気体を圧縮すると比較的簡単に液体となる性質を持ちます。水やエタノールに溶けやすく、普段の生活では「虫刺されのかゆみ止め」として目にすることが多いかもしれません。
このアンモニアは肥料として使われることが多く、現在でもアンモニアの8割が農業用の肥料の原料として利用されています。残りの2割はメラミン樹脂や合成繊維のナイロンなど、工業用の原料となっています。
このアンモニアが次世代エネルギーとして注目されているのです。
アンモニア発電のメリット
肥料として使用されていた「アンモニア」が次世代エネルギーとして注目された理由は、次のようなメリットがあるからです。
アンモニアは発電の燃料として利用できる!
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技術開発が進み、アンモニア自体を燃料として使う「燃料アンモニア」が検討されるようになっています。アンモニアは燃焼時にCO₂が発生しないため、火力発電の燃料として利用することで温室効果ガスの削減につながると期待されています。
アンモニア単体で燃焼を行う「専焼」(アンモニア火力発電)の前段階として、2018年からアンモニアと混合が容易な石炭での「混焼」実証プロジェクトが始まっています。
例えば、国内大手の石炭火力発電の全てで 20%混焼を実施した場合、年間約4,000万トンの CO₂ 排出を抑制し、国内の電力部門排出量の約1割を削減することになります。
アンモニアは水素のエネルギーキャリアとしての利用できる可能性
同じ次世代エネルギーとして注目されている水素エネルギーの生成にも、「水素」を液体化させて輸送運搬しやすくする、エネルギーキャリアとしての利用が期待されています。
アンモニアには水素が含まれるため、大量輸送の難しい水素を、窒素と反応させて液体アンモニアの形で輸送・貯蔵を行い、必要な時に水素として利用することが考えられています。
アンモニア発電は、発電コストが水素エネルギーより大幅に低いとされている
出典:経済産業省 「燃料アンモニア導入官民協議会 中間取りまとめ」より 編集部作成
アンモニアはすでに世界中に流通しているため、既存サプライチェーンの活用も可能です。また、現時点での発電コストは水素に比べると大幅に低いことも魅力です。
実証段階において、アンモニア発電であれば既存インフラを活用できる
先述のとおり、アンモニアはすでに肥料として世界に流通しています。
今後燃料アンモニアが本格的に利用される段階では、別の流通経路を確保する必要がありますが、新技術の検討段階において製造・輸送・貯蔵の各既存のインフラを活用できる点は、大きなメリットと言ってよいでしょう。
アンモニア発電の課題
アンモニア発電における、現段階での大きな課題は以下の通りです。
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「燃料アンモニア」用のサプライチェーンの構築が必要
石炭火力発電にアンモニアの 20%混焼を実施した場合、年間約 2,000 万トンのアンモニアが必要となります。これは、現在世界全体で取引されている貿易量に匹敵する量です。
原料用アンモニアは既に市場が形成されているため、市場価格の高騰を防ぎつつ、安定的
に燃料用アンモニアを確保していくことが必要となります。実際にアンモニアを燃料として利用する段階では燃料用アンモニアの市場の形成と、大規模サプライチェーンの構築が必要となるでしょう。
アンモニアの製造時に、CO₂を発生する
アンモニアは、燃焼時にはCO₂を発生させませんが、化石燃料を使用してアンモニア製造する場合はCO₂を発生します。現在、流通しているアンモニアの大半は化石燃料から製造されています。
技術的には再生可能エネルギーによるアンモニア製造は可能なため、今後は再エネ由来の電力で製造された水素からアンモニアを合成し、カーボンフリーの燃料アンモニアの普及を進める必要があります。
アンモニア発電でCO₂削減へ
アンモニアを燃料として利用する「アンモニア発電」はまだ始まったばかりの技術です。経済産業省も燃料アンモニアの導入・拡大に向けたロードマップを策定するなど、普及に乗り出しました。
まだまだ課題もありますが、既存のインフラが活用でき、水素に比べて低コストな次世代エネルギーのアンモニア発電。2050年カーボンニュートラル達成に向け、その活用が期待されています。