風力発電

加熱する浮体式風車の技術開発競争

更新日:2023年10月30日

浮遊軸型風車(FAWT) 出典:株式会社アルバトロス・テクノロジー

浮遊軸型風車(FAWT) 出典:株式会社アルバトロス・テクノロジー

 

欧米諸国がリードする洋上風力発電事業は、着床式がメインですが、現在各国で研究が進められているのが浮体式の風車です。浮体式が実用化されると、水深50mを超える深い海域でも風力発電が可能となり、日本の風力発電の可能性も広がります。この記事では、主流の水平軸型風車ではなく垂直軸型で浮体式風車の開発を進めるスタートアップ企業、アルバトロス・テクノロジー社を紹介します。

 

この記事の著者
エネルギーのまち能代 編集部
皆様は「洋上風力発電」をご存知でしょうか。秋田県能代(のしろ)市では、日本で初めての「大規模商業運転」が2022年から始まっています。
このサイトでは風力発電の話題はもちろん、再生可能エネルギーや環境問題についても幅広く解説しています!洋上風力発電で未来をひらく、能代の「いま」をご覧ください。

約370倍急拡大が見込まれる浮体式洋上風力発電

浮体式風力発電の拡大予想 出典:自然エネルギー財団

浮体式風力発電の拡大予想 出典:自然エネルギー財団

 

この10年で、浮体式の洋上風力発電の導入量は拡大傾向にあるとされています。上記は自然エネルギー財団の浮体式風力発電の拡大予想ですが、今後、世界の導入の見通しとして、2027年には2GW、2032年には26GWを超える想定で、これは2022年時点の導入量の約370倍にあたります。洋上風力の資源ポテンシャルの80%は、着床式風車が設置できない水深60mよりも深い海域にあるともされており、2023年6月時点で公表済の稼働中・開発中の浮体式プロジェクトは254GW となります。

 

主要各国の浮体式洋上風力発電2030年導入目標量
  
  イギリス	 12GW
  フランス	 6GW
  アメリカ	 7.6GW
  韓国		 6GW
  ノルウェー	 1.5GW

 

世界の浮体式洋上風力発電事情

欧州では、2017年に操業を開始したイギリスを発端とし、大型風車を搭載した中規模事業が複数操業されています。これらの事業により実績データが蓄積されており、欧州では浮体式洋上風力発電事業に対する銀行融資が既に始まっています。
アジア地域での商業開発は韓国が先行しており、韓国南東部に位置する蔚山(ウルサン)では、水深150m~300mの海域に、浮体式の洋上風力としては最大クラスの800MW浮体式洋上風力発電所「Firefly Offshore Wind Farm」の建設が予定されています。

日本企業も2022年に、スコットランド沖の浮体式事業海域をデンマーク、イギリスと3社連合で落札するなど、浮体式ウィンドファームの事業開発に参加しています。

 

日本の洋上風力発電のポテンシャルはアジア最大

日本の領海の広さは、465万平方kmあり、世界第6位。急深海域が広がっているため、洋上風力発電のポテンシャルが高いとされています。IEA Offshore Wind Outlook2019によると、沿岸から60km以内の年間発電可能量は、実は日本がアジア最大とされていて、その98%以上が浮体式による発電量とされています。

日本の洋上風力発電量ポテンシャルは年間約2,253TWhと、日本の総電力需要の約2.6倍(日本の総電力需要2023年度見通しは約864TWh/年)と言われています。

 

浮体式洋上風力発電の課題はコスト

コストイメージ図 出典:istock

出典:istock

 

洋上風力発電には、海底に杭などの基礎構造物を設置し、その上に風車をおく着床式と、海に浮かべる構造物(浮体)の上に風車を乗せる浮体式の2つのタイプがあります。浮体式は、海に浮かべる構造物である浮体の製造と設置の経験が浅く、コストがかかるため、これまでは着床式の設置が先行して進められてきました。洋上風力発電量の98%を浮体式に期待する日本の海域では、今後、浮体式のコストダウンが大きな課題となってきます。

 

浮体式が高コスト化する理由

浮体式にコストがかかる大きな理由の一つは、風車の形状にあります。陸上風力発電で採用されている風車の形状は、水平軸型の風車です。浮体式洋上風車でも基礎がしっかりと固定されている陸上風車の技術がベースとなっているため、水平軸型風車の採用が検討されてきました。水平軸型風車は、基礎がしっかりと固定できる陸上に設置されることを前提として設計されているため、洋上に持って来た場合、いかに揺らさないように設置するかを考えなければなりません。

水平軸型の風車は発電のための重要な部品(ナセル)が風車の上部に設置されています。ナセルの重量に加えて、3枚のブレードの重量も支える必要があるため、重心が高くなると、安定させるためには浮体を大きくしなくてはなりません。
重心が低い方が安定とする船舶工学の観点から考えると、重心が高い場合、浮体が小さいと不安定な状態となります。

そのため「浮体式」で「水平軸型」を採用した場合、背が高く、重心も高い風車を海上で安定させるために、風車を支える浮体基礎を大型化する必要があります。これが洋上風力発電のコスト増大につながると考えられます。

 

浮遊軸型風車『FAWT(ファウト)』でコスト半減

浮遊軸型風車 出典:株式会社アルバトロス・テクノロジーより提供

出典:株式会社アルバトロス・テクノロジーより提供

 

浮体式風車の低コスト化が急がれる中で、アルバトロス・テクノロジー社が開発している浮体を小型化した、低コストの浮体式洋上風車が注目されています。

アルバトロス・テクノロジー社が開発中の風車は、浮遊軸型の風車「FAWT」。従来、浮体式風車の設計は「いかに揺らさないか」を重視していますが、FAWTは、船と同じく「初めから揺れるもの、傾くもの」として設計されていることが、これまでの浮体式風車との大きな違いです。発案者は、船舶工学を専門としていた元東京大学准教授の秋元博路社長。秋元氏が専門とする船舶工学や流体力学の知見を生かしたFAWTは、重心が低く波や風に強い特徴を持っています。

 

浮遊軸型の風車「FAWT」とは

FAWT 出典:株式会社アルバトロス・テクノロジーより提供

出典:株式会社アルバトロス・テクノロジーより提供

 

風車の型は、水平軸型と垂直軸型に大きく二分され、浮遊軸型(FAWT)は垂直軸型に分類されます。軽量で低重心の垂直軸型風車は、超大型台風の厳しい海象を想定しても浮体を小型化できる特徴があります。加えて、回転する円筒浮体で回転軸を支える浮遊軸型は、海水が軸受けとなり、起き上がり小法師のように、強い風で横倒しになっても直立に戻り、「転覆できない」構造をしています。傾きを20°まで許容する設計とすることで、風を受ける面積が広がり発電効率が高くなります。低重心であることと傾きを許容することで、浮体は従来型に比べ小型化されています。

また、大型の水平軸型の風車では、重要機構であるナセルが水面から100m超の高さにあり、作業員が風車の上部までいって点検します。波の影響で浮体部分が揺れれば、高所にあるナセルはさらに大きく揺れるため、安全面から作業できる日数が減ってしまいます。FAWTの場合、発電機などの重要部品が低い位置にあるため、メンテナンスや修理が従来よりも容易になることが想定されています。

 

日本が得意な小型サイズで「国産化率向上」

課題解決イメージ 出典:istock

出典:istock

 

日本における洋上風力発電普及の課題の一つには、日本国内での調達が難しい点が挙げられます。その理由のひとつは、大型化が求められる風車を製造・運搬・保管できるリソースが国内にないからといわれています。 FAWTは、小さい発電機を複数載せるコンセプトで、日本で作れるサイズの部品を組み合わせて作ることに重点をおいており、軽量な部品を用いた組み立て式構造で、横置きで陸上組立が可能です。

また、一般的な水平軸型風車は、各ブレードを一体成形するため、120mの長さのブレード(15MW級の場合)を製造できる、十分な広い場所が必要です。FAWTのブレードは、長さを分割して製造、運搬することができるため、大型工場がなくても製造ができる可能性があるといいます。さらに、ブレードの製造は、連続引抜き成形で生産効率の向上も期待できます。

引抜き成形

金型を通して樹脂と繊維を引き抜きながら固化させ、一定断面の部材を連続出力する成型方法

 

発電性能は変わらず大幅なコスト削減

アルバトロス・テクノロジー社は、FAWTは従来型の風車と比べ、建造コストは半減、保守・運転維持費も大幅に削減できるとしています。その理由は、大きく3つに分けられます。1つ目は、使用する材料重量の削減です。傾斜を許容する構造としたことで、浮体が小型となったこと、組立式のブレードによる国内でのサプライチェーンが容易になることから、部品のコストが削減できます。また、発電機や軸受けが海面よりも上にあるため、完全防水など摩擦ロスやコスト上昇につながる水密構造は不要です。2つ目は、工期の削減。FAWTは陸上で横置きで組立ができるうえ、海上では自己起立しますので、クレーン船を使わずに組立や設置作業が可能となります。大型作業船を確保する必要がなく、工期の削減につながります。3つ目は、メンテナンスコストの削減。低い位置に発電機を載せるため、揺れが少ない広い空間で作業できます。

これだけのコスト削減を実現するにも関わらず、性能面でも劣ることはありません。FAWTは、傾斜しても性能が低下せず、水平軸型と同等の発電効率を保持しています。また、大型化が容易な構造をしていることや、設置間隔を短くできるため設置数を増やすことが可能となることから、着床式や水平軸と比較しても、優位性が高いといいます。

 

高リサイクル性能で廃棄問題を解消

廃棄問題イメージ 出典:CNNニュース

出典:CNNニュース

 

洋上風力発電は、再エネ海域利用法により占有期間が定められています。占有期間を経過した発電所の設備は撤去されます。強い風に耐えるためグラスファイバーを原料とする風車のブレードはその形状から、再利用が難しいとされていて、埋め立てや、CO2や有害物質を排出する恐れのある焼却により処分をしているのが現状です。
FAWTのブレードの原料は熱可塑性樹脂を利用したカーボンファイバー。風車としての役目を終えたら形を変えてリサイクルが可能となります。

 

浮体式風力発電の2030年商用化を目指して

上空からの風景 出典:株式会社アルバトロス・テクノロジー

出典:株式会社アルバトロス・テクノロジー

 

2023年5月、FAWTは国内海域での実証研究のため、J-POWER、東京電力ホールディングス、中部電力、川崎汽船と、5社での共同研究契約を締結しました。まず小型実験機の共同研究から始まりますが、その次は最大5MW級の大型風車の海上実証プロジェクトなどを見込んでいます。2030年ごろの開始を目指す商用機では15MW級の風車を想定しており、着実に、目標に向けて歩みを続けています。

 

浮体式洋上風力発電の最新事例まとめ

水中イメージ 出典:iStock

出典:iStock

 

いま、浮体式洋上風力発電の研究開発は、特に浮体部分において世界中で競争が激化しています。欧米では、スタートアップが技術革新をけん引しています。FAWTは、コスト削減や大型化の検証が進めば、世界で戦える優位性を有することができます。FAWTの今後に目が離せなくなりそうです。

 

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