洋上風力発電とは?特徴を徹底解説
更新日:2023年10月30日
洋上風力発電所(イメージ)出典:iStock
ヨーロッパでは既に大量導入が進んでいる洋上風力発電。日本でも再生可能エネルギーの主力電源化への切り札として、洋上風力発電の事業化に注力しています。日本で洋上風力発電が注目される理由と、そのメリットとデメリットをお伝えします。
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- エネルギーのまち能代 編集部
- 皆様は「洋上風力発電」をご存知でしょうか。秋田県能代(のしろ)市では、日本で初めての「大規模商業運転」が2022年から始まっています。
このサイトでは風力発電の話題はもちろん、再生可能エネルギーや環境問題についても幅広く解説しています!洋上風力発電で未来をひらく、能代の「いま」をご覧ください。
もくじ
日本で洋上風力発電が注目される理由
「能代の海と洋上風力発電」出典:編集部にて撮影
2050年カーボンニュートラル達成を目指し、再生可能エネルギーの主力電源化に舵を切った日本のエネルギー政策。再生可能エネルギーも様々な種類がありますが、島国である日本では洋上を活用した風力発電が有望な発電方法であるとして、注目されています。
洋上風力発電は、日本のカーボンニュートラル達成への貢献期待値が高いこと、また、国土が狭く海に囲まれた日本にとっては、安定して大規模に電力をつくりやすいことから、その注目度が増しています。
再生可能エネルギーは、ヨーロッパの方が日本より進んでいますが、ヨーロッパ主要国の中でも、イギリスの風力発電は日本も参考にできるところが多々あります。
イギリスは、
• 国土の面積が狭いこと
• 海岸線が長く続いていること
• 遠浅の海が広がっていること
から、洋上風力発電の開発・普及に早期に乗り出しています。
日本も、島国であり、海岸線が長く国土が狭いことから、洋上風力発電の設置に適した国であるといえるでしょう。
洋上風力発電のメリット・デメリット
洋上風力発電の導入メリットとデメリット 出典:iStock
洋上風力発電の導入メリット
今まで陸上がメインだった日本の風力発電ですが、陸上適地の多くには既に発電設備が立地しており、これ以上の開発が難しいという現状があります。今後、「2050カーボンニュートラル」実現に向けた切り札として導入が進むと予測される洋上風力発電。そのメリットを考えましょう。
洋上風力発電最大のメリットは「安定性と高効率」
洋上風力発電のメリットは「安定的で効率の高い発電が可能」なことです。風力発電では、同じ方向から一定の強さの風が吹くことが一番効率よく発電できる条件になります。陸上では、山や周りの障害物の影響で風向きや風の強さが絶えず変化するため、発電効率で考えると洋上での発電が有利となります。
また、風力発電の風車はブレードの直径が大きくなるほど風を受ける面積が増え、発電効率が上がります。特に洋上風力発電は陸上と比較して、風車の大型化による景観や騒音等への心配が少ない事から、年々風車の大型化が進んでいます。
洋上風力発電所の風車の大型化出典:資源エネルギー庁
洋上風力発電は、大規模発電を行うことで発電コストが下がります。また、遠浅の海に発電設備を集中的に設置することで、メンテナンスの効率化も可能になります。
欧州では過去に落札額が10円/kWhを切った事例もあり、発電コストの低減化が進んでいます。デンマークでは、発電量の半分が風力発電で占められていたり、イギリスでは再生可能エネルギーが一番安いエネルギーになっています。
欧州で洋上風力発電の中心地となっている北海周辺とは地形や風況は違いますが、日本でも、北海道や東北の日本海側を中心に風況が良いため、今後洋上風力発電の導入が進む可能性があります。
関連産業への経済波及効果が大きいことも洋上風力発電のメリット
洋上風力発電は1基2万点もの部品が必要で、事業規模も大きいため、関連産業への経済波及効果は大きいものがあります。風車設置後も設備メンテナンスや風車部品の供給など、地域活性化につながる産業となります。
以下の図は、洋上風力発電のコスト割合を表したものですが、関連産業の広がりと、O&M(Operation&Maintenanceの略で、設備設置後の運用と保守のこと)の金額が大きいことがわかります。
この保守点検作業を地域企業が受注することで、風車が稼働する20年もの間、メンテナンス業務や部品の製造などが地元産業として発生することになり、地域活性化に繋げることができます。
実際にヨーロッパ港湾都市(デンマーク・エスビアウ港)の事例では、建設・運転・保守等の地域との結びつきの強い産業で地域活性化に寄与しています。エスビアウ市では、企業誘致にも成功し、約8,000人の雇用を創出しました。
出典:経済産業省
洋上風力発電のデメリット
洋上風力発電は、安定的な電力の供給元となる一方で、コスト面に大きな課題が残ります。
陸上風力発電コスト(19.8円/kWh)と比較すると、洋上風力発電(30.3円/kWh)は約1.5倍。特に資本費にあたる基礎工事や電力ケーブルの敷設、維持管理費は、コストを押し上げる大きな要因となっています。
陸上風力発電と洋上風力発電の発電コスト比較 出典:経済産業省『発電コスト検証に関するとりまとめ(案)』より編集部が作図
洋上風力発電のコストは陸上風力発電の2倍
風力発電機の製造(イメージ)出典:iStock
洋上風力発電の設置は全て海上で作業を行う必要があるため、陸上風力発電の約2倍の設置コストがかかります。
基礎工事は、着床式の洋上風力発電機の場合は、風車が倒壊しないよう海底に基礎を築き、足場を固める必要があります。穴を掘る作業や周囲を固める作業を水中で行わなければなりません。
浮体式の利点はこの部分にあり、基礎工事に必要なコストを低減できますが、大型化すればするほど、風車を支えられる大きさの基礎が必要となるため、部品の調達等、別のコストが発生するため、2023年時点ではまだ主流となっていません。
また、電気を送るために海底電力ケーブルの敷設が必要です。風車で発電した電気は、風車の中を通り、海中の電力ケーブルを通って陸上へと送られています。
日本では発電事業者が陸上の既設送電線まで電気を届ける必要があるため、洋上風車が陸から遠くなるほど必要なケーブルが長くなります。このケーブル敷設費用も洋上風力のコスト増の原因です。
洋上風力発電はメンテナンスが難しく、維持費用も高い
陸上風力と比べて問題となるのが、メンテナンスの難しさと、それに伴う維持費用の高さです。
洋上風力発電設備は、波による浸食作用により、陸上よりも早く劣化します。さらに、陸から離れての作業となるため、点検の際はアクセス船でメンテナンス要員を風車に運ぶ必要があります。このメンテナンスのための往復にも費用がかかります。
効率的に作業を行えるよう、天候の安定している夏季に重点的にメンテナンスを行うなどの工夫は行われていますが、万が一、発電設備にトラブルが発生した場合も、陸上に比べてメンテナンスの効率は悪くなります。
また、ブレード、ロータ、ナセルなどの風車の設備そのもののメンテナンスは、陸上でも洋上でも大きな違いはありませんが、発電した電気を送るための海底送電ケーブルや、洋上変電所、港湾設備などは洋上風力発電特有のメンテナンスとして発生します。
洋上風力発電の系統制限問題
再生可能エネルギーでの発電は、地域にある資源を活用するという特性上、発電の供給地が限られます。
日本の洋上風力発電の好適地と考えられている北海道地方や東北地方は、電気需要の中心地である首都圏からは距離があるため、首都圏に電気を届けるまでの間に送電ロスが発生してしまいます。
また北海道地方や東北地方と、首都圏をつなぐ送電網は、現状電力の系統制約の問題があります。関東と東北を繫ぐ送電線は容量に空きがなく、首都圏まで電気を届けるためには送電線を増やす必要があるとされています。
例えば、東北から東京間の大規模な送電線の新設・増強を行った場合、7,000〜8,000億円が必要になると試算されています。
洋上風力発電の種類
風車の構造イメージ 出典:iStock
風力発電機の形式
風力発電機の形式 出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 HPより
洋上風力発電で使われる風車の形式は、「水平軸型(HAWT)」、「垂直軸型(VAWT)」の2つに大きく分けられます。大まかに言えば風車の回転軸が風向きに対して水平か垂直かで区別されています。
さらに言うと作動原理によって、翼の揚力を利用して高速回転を得る「揚力型」と、風が押す力で低速回転する「抗力型」に分けられます。
多くの中型・大型の洋上風力発電では、水平軸型が採用されています。水平軸型は、プロペラ式に代表されるもので発電効率が高く、大規模運転に向いています。
垂直軸型の風力発電機は、風向きに対する依存性がなく、プロペラ型と比較すると、ブレードの製造や設置が容易であるという利点があります。
回転数制御が難しいことや、自己起動が困難であること、水平軸型と比較すると効率が劣るなどの課題もありますが、一方で、洋上風力発電機の設置コスト削減のカギにもなりうるため、実用化に向けた開発、実証が進んでいます。
流れの中に置かれた物体には、力が働きます。力の流れの方向が、直角方向の力を揚力、水平方向の力を抗力、と呼びます。揚力型風車は発生するトルク(回転させる力)は少ないですがエネルギー変換効率は高く、抗力型風車はポンプなどの機械駆動に適した風車です。
水平軸風車(HAWT)
商業用の風力発電機として導入されているものの多くは、水平軸風車です。水平軸型の風車の代表にはプロペラ型があり、一般的に普及しています。
プロペラ型は、流体力学的には風車の羽根の数が少ないほど高速回転するとされていて、高速回転を追求した2枚羽根や1枚羽根の風車もありますが、バランスが取れている3枚羽根が主流です。高速回転する反面、騒音や首振り運動による効率ロスも生じやすいです。回転数よりも、トルクを大きくするために、羽根の数が5~6枚に設計されているケースもあります。
風は上空にいくほど強くなるため、風車の設置位置が高く、ブレードも大きい方が発電量も多くなります。水平軸型は風車を大型することで、発電効率を上げやすいというメリットがあります。
垂直軸風車(VAWT)
全方向の風に対応することで、風車の向きの調整がいりません。また、風車の主要部が地面に近くメンテナンスが容易であり、構造がシンプルで低コストというメリットがあります。ただし、水平軸風車と比べて効率が悪く、広い設置面積が必要です。
風力発電で採用される垂直軸型の風車も様々な形状がありますが、風力発電で採用される代表的な風車は、サポニウス型風車と、ダリウス型風車です。どちらも、発明者の名前が由来となっています。
サポニウス型風車は、円筒を縦に分割した形状で、風を受けやすいように羽根の位置が配置されています。
通り抜ける風が筒の内側を通り、その跳ね返りがもう一方の筒の内側に流れ込む構造で、回転方向に押す作用と、向かい風の抵抗を抑える力が働き、回転効率が上がります。
ダリウス型風車は、縦方向に曲がった羽根が風を受けて回る風車です。建設するためのコストが低く、強風でも騒音をあまり出さずに回るため、都市部などでの発電に向いています。
風力発電機の種類(小型)出典:日本経済新聞
洋上風力発電の基礎は2種類
洋上風力発電では、発電設備を設置しようとする海域の水深によって、設置できるタイプが異なります。水深が50mまでなら海底面に風車の基礎を設置することが可能なため「着床式」となりますが、水深が60mを超えると海の上に風車を浮かばせる「浮体式」となります。
風力発電機の基礎部分 出典:金沢工業大学 HPより
「着床式」基礎について
水深が50m位までの海域で採用されます。イギリスやドイツなど、遠浅の海が多い欧州で導入が進んでいて、秋田県能代市で採用している洋上風車はこのタイプのもの。沿岸部など比較的水深の浅い海に設置が可能です。
「浮体式」基礎について
水深60m以降はこちらの方式が採用されます。風車を乗せた基礎部(浮体)を海に浮かべ、チェーンなどで海底に繋ぎとめます。水深の深い日本の海に向いていると考えられており、2023年10月には国による浮体式洋上風力発電の実証候補区域として、秋田県南部沖を含む4海域が選定され、今後の大規模導入が期待されています。
洋上風力発電がこれまで日本で普及しなかった理由
世界初の洋上風力発電はデンマーク(イメージ) 出典:iStock
世界初の洋上風力発電は、1991年、欧州のデンマークで運転が開始されました。日本で最初の本格的な洋上風力発電運転は2010年。茨城県神栖市・鹿島沖にある「ウィンド・パワーかみす第1洋上風力発電所。世界初から、約20年の後れを取りました。
その後、政府主導で風力発電の運転に向け力を入れるも、様々な制約がその普及を妨げていました。
初期コストの高さと、事業見通しの難しさ
洋上風力発電が今まで日本で普及しなかったのには、いくつかの理由があります。まず事業開始から運転開始まで7~8年単位の時間がかかることが問題となります。
風力発電では、事業開始前に先行利用者との調整や環境アセスメントが必要になります。この調査に時間がかかることが、事業者にとってリスクと捉えられていました。
またコストの高さが一番のネックとしてあげられるでしょう。風力発電にかかるコストは、陸上と洋上で異なります。とくに高いのが、前述のデメリットでも取り上げた、設置コストと維持費用の高さです。
出典:2021年 発電コスト検証WG 第7回会合資料より 編集部作成
上記の図は2021年時点での比較ですが、陸上風力と比較した場合、設置コストは2倍近く、メンテナンス費用も3~4倍になっています。
一方、同じ再生可能エネルギーである太陽光発電では、数kWから数十MWまで、導入規模を自由に変えることができ、企業体力に合わせて導入コストを低く抑える事も可能でした。FITの後押しも受け、太陽光発電は一気に導入拡大が進み、日本の再エネと言えば太陽光発電という状況が生まれました。
対して風力発電では、初期コストの高さと先行きの不透明さから、事業者にとっては参入メリットが少ない状況でした。
洋上風力発電で海上を占有する法律がなかった
洋上風力発電は、洋上に風車を設置して20年以上という長期にわたり発電を続けるものです。ですが「再エネ海域利用法」ができるまで、日本には海上を長期で占有する場合のルールがありませんでした。
道府県知事の許可による「占用許可」という制度はありますが、「占有許可」では20年もの長期にわたって認可を受ける事はできません。そのことから洋上風力発電は、中長期的な事業計画が立てられない状況になっていました。
また、漁業関係者や海運業などの、先行利用者との調整に関する枠組みが存在しないことも問題でした。
風車を設置しようにも、誰がどのようにその海域を利用しているかの把握が難しく、意見調整の方法も不明なため、先行利用者との調整に必要な時間や、コストが予測できないことが事業者側の不安要素となっていたのです。
出典:資源エネルギー庁
この法律が制定されたことにより、まずは洋上風力発電という事業に長期的な見通しが立つようになりました。
非効率な環境アセスメントの実施方法
また、他方では調査段階における問題も発生していました。洋上風力発電所を設置するためには、風況・地質等の調査・環境アセスメント・地域調整・系統対策などの様々な準備が必要となります。
これらの準備をクリアし、運転開始に至るまでには、7~8年程かかることが一般的ですが、環境アセスメントは発電事業者が自ら行うように定められており、発電事業側のリスクとして存在していました。
しかし、再エネ海域利用法では洋上風力発電を設置する「促進区域」が国から指定されるために、複数の事業者が重複して同一海域で調査を行い、その度に漁業関係者の操業調整などの負担が発生することで、地元の反感を招き、結果として案件形成が難しくなってしまう事態が発生していました。
洋上風力発電の環境アセスメントを行う際に、事業者が個別に案件に取り組んでいては、洋上風力全体の導入拡大が進まないため、事業者からも「もっと案件の形成初期から、政府が主体となって事業を進めてほしい」という声が聞かれるようになりました。
これを受け、政府が積極的に案件形成に関与するための「日本版セントラル方式」を検討し、案件の初期段階から政府が主導して、より迅速・効率的に調査や調整を行う制度設計を進めています。
日本での洋上風力発電導入方針と課題
洋上風力発電普及のロードマップ(イメージ)出典:iStock
洋上風力発電普及における政府の方針
2020年12月に発表された洋上風力産業ビジョン(第1次)で洋上風力発電全体で「2030年までに1,000万kW、2040年までに3,000~4,500万kWの案件を形成する」との目標が設定されました。
洋上風力発電の具体的な導入目標が示されたことは非常に大きな前進です。例えば中国は風力発電で世界一位の圧倒的な発電量となっていますが、これは政府主導で一気に洋上風力の導入を推し進めたという経緯があります。イギリスなども同様に政府主導で洋上風力発電の拡大を行いました。
今回の発表を受けて、日本市場への国内外企業の投資が活発化していますが、3,000~4,500万kWのうち、どの程度を浮体式が担うのかについては、今年度中に発表するとされています。今後の方針が発表されることで浮体式の市場へも投資が加速するでしょう。
「国内製造拠点がない」というハンデ
問題は政府目標が決まっても、すぐには生産が追いつかないというサプライチェーンの現状です。数年前に日本の主要風車メーカーが撤退してしまって、風車の部品は海外からの輸入に依存しているという状況でした。
そこで、政府は産業界に向けて国内調達目標と、コストの低減の目標を示しています。
国内調達目標 「国内調達比率を2040年までに60%」
コスト低減目標 「着床式の発電コストを、2030~2035年までに、8~9円/kWh」
現在日本の洋上風力発電の発電コストは21.1円と、先行する欧州に比べて高いのが現状です。欧州と同レベルまで発電コストを下げるならば、先行する欧州を追いかけるのではない、別の戦略が必要になるでしょう。
例えば、洋上風力で主流となっている「着床式」で勝負するのではなく、海の上に基礎を浮かばせる「浮体式」で、日本と気象・海象が似ているアジアへの展開を目指すことが有効かもしれません。
まだ世界的に技術開発の進んでいない、浮体式で日本の技術力を発揮し、サプライチェーンの増強と共に設備コストを大幅に下げる。これが実現できれば、世界中で拡大する洋上風力市場で日本が競争力を発揮できるようになります。
日本の洋上風力発電まとめ
風力発電所がある未来のイメージ 出典:iStock
洋上風力発電は、陸上風力発電の技術を応用して開発、運用されています。また、ヨーロッパの遠浅の海域で広がった着床式を追随する形で、日本の海洋構造用に、水深60m以深の海域でも活用できる浮体式の研究が加速しています。
陸上風力発電では大規模な発電が難しいと言われていた垂直軸型も、洋上では再び注目されています。
大陸棚に囲まれる日本にとっては、諸外国と比較しても、浮体式の開発に向いている地域。欧米、中国など、世界の競合へのアドバンテージとなり得ます。
世界から遅れをとっている我が国の洋上風力発電事業における逆転劇がこれから起こるかもしれません。